ドラマはほぼすべて創作だと思うがザイア・ジウアニさん本人のすごさは伝わる…
現在46歳、実在のフランスの音楽家、指揮者のザイア・ジウアニさんの17歳から20歳くらいまでを描いた映画です。女性の指揮者というだけではなく、若干20歳にして自らのオーケストラ、ディベルティメント管弦楽団を立ち上げています。
ディベルティメント管弦楽団
ザイア・ジウアニさんがディベルティメント管弦楽団を立ち上げたのは1998年、それから現在まで26年間、一過性で終わっているわけではなく活動は今も精力的に継続されているようです。ウェブサイトを見ますと、演奏会も定期的に行われていますし、積極的に文化活動や教育活動にも力を入れています。
YouTubeチャンネルもあります。
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YouTube のショート動画ですのでスマホサイズです。実際のザイア・ジウアニです。最初のボケた映像は学生時代でしょうか。チェロは双子の妹フェットゥマ・ジウアニさんですね。
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こうしたコンテンポラリーダンスとコラボしたステージもやっているようです。
すごい人ですね。
ドラマ部分はほとんど創作のようだ…
映画はそのザイア・ジウアニさんの17歳からの3年間ぐらいを描いています。ポンポンポンと出来事だけを描いていく映画ですので、そこはどこ? みたいな感じで状況がわかりにくシーンが多いです。でもまあ物語は単純ですのでなんとなく見ていけばいい映画ではあります。
おそらく設定や背景がわかりにくくなっているのは、この映画のドラマ部分のほとんどが創作だからじゃないかと思います。ザイア・ジウアニさんのインタビュー記事を読みますとこの映画のような経緯はたどっていないようです。
興味がある方はどうぞ。
この映画で事実と言えるのは、家族関係とセーヌ=サン=ドニのスタンが拠点であることとセルジュ・チェリビダッケに師事したこと(亡くなるまでの1年間らしい…)くらいじゃないかと思います。もちろんディベルティメント管弦楽団を立ち上げているのは事実です。
多義的であることと過剰さのなさの裏表…
ザイア(ウーヤラ・アマムラ)は、アルジェリア人の両親のもとに生まれ、双子の妹と弟がいます。父親がクラシック好きでその影響もあるのだと思いますが、ザイアはヴィオラを演奏し、妹のフェットゥマ(リナ・エル・アラビ)はチェロを演奏します。
17歳です。ザイアとフェットゥマはパリの郊外都市スタンの音楽学校からパリの名門音楽学校に編入してきます。そこはエリート校らしく、生徒たちはあからさまに二人を田舎者扱いして馬鹿にします。
ザイアは指揮者志望だと言い、よくわかりませんが発表会のようなものの指揮を担当することになります。その学校には競争相手として男性のエリート学生がいます。ザイアが指揮をする段になりますと、エリート学生たちはあからさまに妨害行為をします。
率直なところ、こういうダサい演出はやめてよとうんざりしていたんですが、でも結局、このマリー=カスティーユ・マンシヨン=シャール監督のいいところ(かどうかは?…)と言えるかもしれない特徴が発揮され、いじめシーンにもしつこさはなく2シーン程度で済ませており、いつの間にかそんな対立構造なんてどっかへいってしまいます(笑)。
マリー=カスティーユ・マンシヨン=シャール監督の映画は、「奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ」「パリの家族たち」と見てきていますが、映画に一本の軸を設定してそれにこだわる監督ではなく、いろんな要素を織り交ぜながら描いていく監督のようで、この映画で言えば、エリートとの対決やそれをへこませる演出にこだわることはないようです。
ですので、エリート学生との対決が軸というわけではなく、他にもいろんな要素が織り込まれています。
ピアノとクラリネットのうまい青年と刑務所に入っている父親との話、チェリビダッケ(ニエル・アレストリュプ)に認められて師事する話、地元のスタンで子どもたちに音楽を教える話、それらがなんとなくわかるようであり、突っ込んで考えれば、ん? ともなるような展開でどんどん進みます。
そして、ラスト前、何が原因だったかは忘れましたが(はっきりしていなかったと思う…)、ザイアが落ち込んでいるところに三拍子のスネアドラムが聞こえてきます。ザイアが家の窓から外を見ますと数人のメンバーが演奏をしています。
ラベルのボレロです。
ザイアが外に出ますと次から次へとメンバーが加わり演奏に参加していきます。同時に人も集まり始めます。フェットゥマがザイアに指揮棒を渡します。
スタンの公営住宅の広場です。ザイアの指揮でボレロが演奏され、一定程度盛り上がり終わります。
過去見た2作でもそうですが、この監督のよさはベタな盛り上げに頼らないところがいいです。そこそこ盛り上げつつも過剰さがないところは評価できます。
というところから言えば、こうした人物は、ましてや現役の人物の映画は、こうしたつくられたドラマで描くよりも、この映画以後の経緯をドキュメンタリーで撮ったほうがザイア・ジウアニさんの実像がよくわかるのではないかと思います。
どういう映画かはわかりませんが、すでにザイア・ジウアニさんを撮ったドキュメンタリーがあるようです。ウェブサイトに紹介されていました。
やはりドラマではなく、その実像に迫る映画にすべき人物ということでしょう。