家族といっても父と兄弟、男たちだけの家族だった…
実話をベースにした音楽映画です。1979年に「Dreamin’ Wild」というアルバムを出したもののまったく売れずにいたものが30年後に発掘されて一躍脚光を浴びることになったドニー&ジョー・エマーソンというアメリカの兄弟バンドの話です。

現在のドニー&ジョー・エマーソンも…
疑うわけではありませんが(笑)、知らないバンドですので調べてみたところ、ドニー&ジョー・エマーソンが実在であることは間違いないです。
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現在のドニー&ジョー・エマーソンがラストシーンに登場していました。現在のドニー&ジョー・エマーソンにナンシー(ズーイー・デシャネルだったか…)を加えて「When A Dream Is Beautiful」を演奏しています。
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この曲はアルバム「Dreamin’ Wild」に入っていませんので映画のためのオリジナルかもしれません。
再リリースは喜ぶべきことじゃないの?…
映画は、現在(2011,12年ごろ…)と1979年ごろがかなり細かくモンタージュされて進みます。シーンとしては過去のほうが多かったように思います。
ドニー・エマーソン(ケイシー・アフレック)は妻のナンシー・エマソーンとともに音楽スタジオ経営と地元(多分ワシントン州スポケーン…)のクラブや結婚式での演奏活動で生計を立てています。しかし、まったくうまくいっていません。
そんなとき兄のジョー・エマーソン(ウォルトン・ゴギンズ)から電話が入り、シアトルの再プレスレコードレーベル Light in the Attic が自分たちの30年前のアルバム「Dreamin’ Wild」を再リリースしたいと言っていると言ってきます。
会って話は聞くもののドニーは浮かぬ顔のままです。信じらないという気持ちとなにか過去への思いがあるようです。そのことが明らかにされていく映画です。そしてそこには深い家族愛と兄弟愛があるという映画です。
ただ、思い返してみますとドニーの描き方になんだか違和感を感じます。ドニーが再リリースを喜ぶシーンがまったくといっていいほどないんです。ほぼ最後まで憂鬱そうな表情のままです。
ケイシー・アフレックさんのキャラクターでそう感じたのかもしれませんが(笑)、ドニーの過去への思い、悔恨は父親への負い目です。父親はドニーに才能があると信じて、楽器を買い与え、農場に本格的なスタジオまで作ります。資金は1,700エーカーの農場を担保にしての借金です。そして出来上がったアルバム「Dreamin’ Wild」はまったく売れず、父親はその農場を失っているのです。
であれば、再リリースの話は喜ぶべきことじゃないかと思いますけどね。もちろん最初は半信半疑であるにしても、その後は再リリースが決定し、それが評判となり、実際にレーベルの担当者が印税小切手を持ってくるシーンまであります。
お父さん、これまでありがとうって小切手を渡せばいいように思いますがね。それじゃ映画にならないかね(笑)。
これは今の音楽じゃない、とドニーは…
後半の憂鬱はわかります。
後半になりますとシアトルのライブハウス Showbox でのライブとツアーの話が持ち上がります。ドニーとジョーは練習に入るのですが、ドラムのジョーがまったくついてこれません。
ジョーが現在何をしているかははっきり描かれていませんが、両親と同居ですので残された60エーカー(もうちょっとあった…)の農場経営(何をやっているのかはわからない…)なんでしょう。そうだとすれば30年も音楽から離れているわけですからそもそも無理な上に、30年前の設定にしてもドニーについていっているだけということになっています。
ドニーは現在の音楽パートナーでもある妻のナンシーと他に2、3人のメンバーを加えることにします。ライブなんですから最初からそうすべきだとは思いますが(笑)、とにかく、それでもドニーはジョーがついてこれないと当たりまくります。
結局ナンシーになだめられたり、30年前の兄弟愛の画がモンタージュされたりして本質的な問題は曖昧なままに Showbox でのライブに突入です。結局、ここでも皆がよかったよかったと盛り上がっているのにドニーはひとり最悪だ、身内の客が喜んでいるだけだと喚き散らします。
映画の意図としては、本物を目指すドニーにとっては30年前の音楽は懐メロに過ぎず今の音楽ではないという気恥ずかしさのようなものを言っているのだと思います。
結局、ドニーの音楽的内面性は曖昧にされたまま、やはりここでも兄弟愛で解決ということで、ツアーのワンシーンなのかナンシーも加えて「baby」のライブシーンがあり、そして、ラストシーン、いつの間にかドニーもジョーも随分歳を重ねた姿で「When A Dream Is Beautiful」を演奏して終わります。
現在のドニー&ジョー・エマーソンです。
過剰な兄弟愛が鬱陶しい(ゴメン…)
ビル・ポーラッド監督、監督としては3作目ですが、プロデューサーとしてはすごいキャリアですね。制作会社リバー・ロード・エンターテインメントの創設者でありCEOとのことです。たしかにこの川のロゴはよく見ます。
ただ、この映画の手法はかなり鬱陶しいです。意図不明な暗いシーンが多いですし、カメラがアップのまま動き回りますし、それに演出としても、兄弟愛を強調し過ぎです。
家族愛じゃないですよね。母親はともかくとしても二人の姉妹はなんのために出しているんでしょう。まったく台詞もありませんし、おまけのように出すのであれば出さないほうがいいです。この映画の中の家族は父親とドニーとジョーの男たちだけの家族みたいです。
それに過去のシーンのドニーのガールフレンドも中途半端ですし、ナンシーにしても、妻でもあり、音楽パートナーでもあり、共同経営者でもあるわけですから、もっと会話シーンを入れておまけの存在じゃなくすべきだと思います。
この最後の項目は余計なことでした(ゴメン…)。