枯れ葉

引退宣言を翻しての復帰はロシアによるウクライナ侵略がきっかけでしょうか…

2017年の「希望のかなた」以降見ていないなあと思っていたアキ・カウリスマキ監督、引退宣言をしていたんですね。それを翻しての新作、何を思ってのことでしょう。

枯れ葉 / 監督:アキ・カウリスマキ

ロシアによるウクライナ侵略かな…

多分、ロシアによるウクライナ侵略でしょうね。ラジオからその情勢を報じるニュースが何度も流れます。

おそらくフィンランドの危機感は我々では想像できないくらい強いものなんでしょう。なにせロシアと1300kmに渡って国境を接している国ですし、実際に1939年にロシア(当時はソ連邦…)に侵略されて「冬戦争」を戦っています。その戦争ではかろうじて独立は守ったものの国土の10分の1を失っています。

引用した「アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場」という映画は、その「冬戦争」の後の1941年から44年まで続く「継続戦争」と呼ばれている戦争を描いた映画です。もちろんソ連邦との戦争です。確かこの戦争も敗北に近いものだったように記憶しています。

まったくの想像ですが、アキ・カウリスマキ監督にしても、ロシアによるウクライナ侵略がなにかせねばとの思いを抱くきっかけになったのではないでしょうか。

映画はアキ・カウリスマキ節だが…

映画はもうアキ・カウリスマキ節そのものです。映画になんとか節というのもなんですが、一見してそうだとわかりますし、アキ・カウリスマキ監督じゃなければこの手法で映画を撮る監督はいないでしょう。

いわゆる社会の下層階級(言葉としてよくないけど…)の登場人物を感情表現を極端に排した演出方法で描きます。その設定や背景はミニマルですし、ほとんどのカットがフィックス撮影で撮られています。

登場人物が感情表現をしない分、逆にその思いが見る側に伝わるというアキ・カウリスマキ監督独特の映画手法です。

ただ、この「枯れ葉」は今までになく直接的なすれ違いのラブストーリーでちょっと驚きです。アキ・カウリスマキ監督でなければ完全なるメロドラマです。いや、この映画もそう見えないだけでメロドラマですね(笑)。

たっぷりと使われる懐メロ…

日本の公式サイトにもプレイリストがありますが、様々な音楽がたっぷりと使われています。ほぼ懐メロです。そのものズバリのフィンランド版「枯葉」まで使われています。

懐メロであることにも意図がありそうです。時代設定は、カレンダーが2024年を示していましたし、ウクライナの戦況を報じるラジオ放送が流れますので現代なんですが、そのラジオの古さやダイヤル電話(携帯も持っている…)、それに映画のポスターもかなり古いものばかりです。ウクライナ戦争を持ち出していることからくる現実感を遠ざけたかったのだと思います。

ふたり見る映画にはジム・ジャームッシュ監督の「デッド・ドント・ダイ」が使われていました。その映画を見た観客がゴダールやブレッソンの名前を出して感想を述べあっていました。ちょっとよくわからない感想でしたので皮肉かも知れませんね。

プロットはすれ違いメロドラマ…

アンサ(アルマ・ポウスティ)とホラッパ(ユッシ・ヴァタネン)のすれ違いラブストーリーです。

アンサはスーパーマーケットで働いています。英語やフィンランド語のウィキペディアを見ますと「ゼロ時間契約」とあります。実際の運用はよくわかりませんが、定義としては「雇用主は最低労働時間を提供する義務を負わず、労働者は提供された仕事を受け入れる義務を負いません」という労働契約らしいです。

アンサは消費期限切れの商品を持ち帰ろうとして咎められ解雇されます。一緒にいた同僚ふたりも抗議の意味でやめてやるといっていましたので「ゼロ時間契約」とはそういう契約ということなんでしょう。アンサはひとり住まいです。

一方のホラッパは工場労働者であり、仕事中に酒を飲むほどの依存症ですのでそれを理由に解雇されます。ホラッパは寮住まいですので寮を退去します。

アンサにまったくお金がなくなるシーンはありますが、例によって感情表現なしですので悲壮感はありませんし、すぐに仕事は見つかります。ホラッパもすぐに他の仕事をしていますがそこでも酒を飲み解雇です。

そのふたりがカラオケで出会い、しかし目をあわせて意識はするものの言葉をかわすこともなく、その後アンサが働くパブで出会い、カフェに行き、映画を見、帰り際、また会いたいか、会いたいの会話があり(笑)、アンサが電話番号を渡すもホラッパがなくしてしまい、アンサは電話を心待ちにするも、その時、ホラッパはふたりで行った映画館の前で何時間もじっと待っていたりします。

映画館の前に無数の吸い殻が落ちているのを見たアンサは後日再び映画館に行きふたりは再会します。アンサは自宅に食事に誘います。その日、花束を持って訪ねるホラッパ、しかし酒はシャンパンのハーフボトルのみ、酒はないかというホラッパにアンサは父も兄も酒で命を落とした(だったか…)、アル中は嫌いと言います。ホラッパは俺は好きなように生きると言い帰ってしまいます。

あれこれあり(こういうところが重要なんですが省略(笑)…)ある日、ホラッパは酒を断つことを決め、アンサに電話をします。すぐに来てというアンサ、駆けつけるホラッパ、そして衝突音、ホラッパは交通事故にあい意識不明となります。

日本映画なら涙ダダ漏れでしょう(笑)。

その後、事故のことを知ったアンサは病院に行き、意識はないがなにか話しかけてあげてと言われ、隣りに座り無意味な雑誌を読んだりします(笑)。

後日、病院からホラッパの意識が戻ったとの知らせを受けたアンサは病院に駆けつけます。病院から松葉杖のホラッパとアンサが出てきます。枯れ葉舞い散る公園をふたりが歩いていきます。すたすたと歩くアンサ、松葉杖をつきながら慌てて後をついていくホラッパです。