ニワトリ目線で描かれるシュールでシニカルな寓話もの
面白いような面白くないような(笑)、ちょっと変わった映画でした。鶏が主役と言えば主役の映画で、鶏が人間たちの愚行を見つめていきます。いずれ地球も「鶏の惑星」になるのかも知れません。

ネタバレあらすじ
雌鶏、なにかに目覚めて旅に出る
ひよこを生産する工場から一羽の黒い雌鶏が逃げ出し、さまよいながら自分の子孫を残そうとする物語です(多分…)。
冒頭のカットは雌鶏のおしりから卵がでてくる総排泄腔のアップ映像です。ちょっとグロいです。ぽとりと落ちた卵が転がっていき、たくさんの卵と一緒になり処理されていきます。食用の卵の生産工場かと思いましたら、そうではなく孵卵場というひよこの生産工場でした。
この映画、それぞれのシーンと言いますかシークエンスと言いますか、表現しようとしていることのまとまりがかなり長くてくどいです。そこにあまり心地よくない(人による…)音楽が入りますので、もうその辺でいいんじゃないとたびたび思います。
この最初のシークエンスも結構長いのですが、孵化したひよこたちがやがて成長し出荷されていきます。その中に一羽の黒い雌鶏がいます。運送業者はこいつは夕食のスープにしようと黒い雌鶏を取り出し運転席に放り込みます。
そして、開いていた窓から逃げ出した雌鶏の冒険の旅が始まります。
狐に追われ、コンビニのような店に逃げ込み、店員に追い出され、さらに追ってきた狐は車に轢かれて即死です。その後、鳩と餌を取り合ったり、猛禽類とにらみ合ったり、そしてついに犬に噛みつかれて万事休す、かと思いましたらそうではなく「パノラマ」と看板の出たシーフードレストランに連れて行かれます。
雌鶏が目覚めたものは生殖本能か
え、シーフードレストラン? とまったくそうは見えないのですが、後半になりますと突然復活して客で大賑わいとなるシーンがあります。何らかの理由で閉店していたということでしょう。
この映画、ほとんどのシーンでカメラが鶏目線に置かれており、人間たちは足だけとか声だけとかで進み、人間の行動についての説明的なことは何もありません。後半になってやっと全体が見えてくるような映画です。
雌鶏を咥えてきた犬はレストランのオーナーの男が飼っている犬で、男は雌鶏を他に数羽の鶏がいる小屋に放り込みます。ここからしばらくはその雌鶏が毎日産む卵を男が回収していってしまうシーンがかなり繰り返されます。また、雌鶏は小屋の中の雄鶏と交尾します。
雌鶏は男が卵を回収していくことに抵抗を示し始めますし、雄鶏との交尾も何度もありますのでおそらく雌鶏は自分の子孫を残そうとしているのでしょう。終盤には別の雌鶏がやってきて雄鶏を取り合うシーンがあり、人間目線でみれば三角関係に見えるかも知れませんが、きっと子孫を残すための生殖本能を描いているのでしょう。
人間の悪行を見つめる雌鶏、何を思う
映画中盤からは人間の悪行が雌鶏目線で描かれます。
男には娘がいます。幼い女の子がいましたので多分その子どもでしょう。2、3度その子どものカットが挿入されており、物語的には意味はないのですが、それによりなんとなく生活感が感じられます。娘は若い男と付き合っており、若い男は時々やってきてはいちゃついています。娘のほうが積極的に描かれています。
突然人身売買シーンになります。若い男は仲間と車(箱車…)で海岸に行き、ボートで密航してきた難民たちを急き立てるようにコンテナに押し込みます。そして元レストランに運ぶんですが、実はその車のコンテナには送風機がついており、出発前に雌鶏がそこに潜り込んで卵を産んだために送風機が回らなくなっています。車が元レストランに到着しコンテナを開けますと、多分窒息死という設定だと思いますが全員死亡しています。若い男たちはコンテナ内にガソリンを撒き車ごと燃やしてしまいます。
雌鶏視点を強調する意図だと思われますが、こうした人間の行為が無感情に冷淡に描かれていきます。
雌鶏も焼け死んだかと思われましたが、翌日オーナーの男が燃え尽きた灰を埋葬しようとしているときに灰の中から生き返ってきます。雌鶏は男に治療されて元気になり、ここで別の雌鶏が登場して雄鶏の取り合いのシーンがあったように思います。いずれにしても再び雌鶏は生殖本能を発揮し始めます。
ここでもう一度人身売買シーンがあったと思います。ここでは難民たちは元レストランの狭い一室に閉じ込められますが、ここでも雌鶏が中に入っており卵を産み、お腹が空いたという子どもたちの食料になっていました。
シュールでシニカルな寓話もの
突然、レストランが復活します。オーナーの男がもうこんなことしてちゃダメだみたいなことを言っていたように思います(違うかも…)。
ところで、ハンガリーの監督というちらっと見た情報だけでしたので、そもそもロケーションがどこだかよく分からずハンガリーに海はないよなあと見ていたんですが、ギリシャだったようで、ですので難民問題が描かれ、レストランもシーフードレストランということだったようです。
その超満員のレストランに人身売買の元締めと思われるギャングの親分がやってきます。手下が拳銃を空に向けてぶっ放しますと客が皆あわてて帰っていきます。そしてその夜、どういうことかよくわからないままにレストランのオーナーは射殺されます。
雌鶏が産んだ卵からひなが孵ります。
で、終わっていたような(笑)、ぼんやりしているうちにエンドロールになっていました。
感想:日本映画にはないシニカルさが興味深い
いろいろ人間世界の問題が鶏目線で描かれている映画だとは思いますが、それらがすんなりと入ってくる映画ではありません。
多分文化的なものの違いじゃないかと思います。
鶏小屋に閉じ込められる鶏たち、コンテナや狭い部屋に閉じ込められる難民たち、描かれ方が容赦ないですね。こうした人間の悪をシニカルに見る映画というのは日本映画にはあまりなく、はっとさせられる映画ではあります。
ただ、もう少し面白くしてほしい(ゴメン…)と思います。