シャドウワーク

おうちってなに? 交換殺人ってなに? 女性たちの連帯エンターテインメント

現実ならこんなふうに終わっちゃいけないけれども映画としてはおもしろいです。それにやっぱり吉野竜平監督はうまいですね。

シャドウワーク / 監督:吉野竜平(𠮷野竜平)

ネタバレあらすじ

「バカにしないでよ〜」

吉野竜平監督の名は「君は永遠にそいつらより若い」で記憶に残り、中川龍太郎監督の「四月の永い夢」の共同脚本として名前が上がっていることを知ってさらに興味を持ち、DVD で「あかぼし」を見、「ファンファーレ」でその演出力を再確認した監督です。

この「シャドウワーク」には原作がありますので構成が原作通りかどうかということもありますが、ネタが次々にバラされていくのに最後まで集中して観られるんです。今思い返してみますと結構雑なんですけど構成がうまいから観られるということなんでしょう。

殺人現場から始まり、その犯人たちが「バカにしないでよ〜」と「プレイバックPart2」を歌いながら顔出しするんです。なんじゃ、これ? と思いますが、この映画はミステリーものや犯罪ものじゃないという宣言なんでしょう。あ、いやいや、犯罪ものではあります(笑)。

ん? でもあの冒頭のシーンで「おうち」のメンバーが海に投げ込んだ死体は「おうち」に舞い戻ってきた DV 被害者のむつみ(という名だったと思う…)ですよね。そうだとしたら、たとえバラすぞと脅してきたとしても「バカにしないでよ〜」はないんじゃないですかね。

まあいいか(笑)。とりあえずこういう話です。

DV 被害者 紀子の選択

紀子(吉岡里帆)はパートナーの DV から逃げようとしてアパートの階段から転げ落ちて入院します。そして、病院の看護師 路子(美保純)から DV 被害者たちが共同で暮らす「おうち」へ来ないかと誘われます。

「おうち」は昭江(風吹ジュン)と路子が運営する DV 被害者のためのシェルターであり、他にしのぶ(酒井若菜)、奈美(ファーストサマーウイカ)、凛(佐月絵美)が暮らしています。「おうち」は農園を持っており、その従業員として給料も支払われます。昭江はしばらくここで暮らしてやっていけそうなら残ればいいし、だめなら出ていけばいいと言い、「持ち回り」というルールを話します。

ここでは食事を作ることを持ち回りでやっているくらいの感じでしたが、この「持ち回り」という言葉は「おうち」の深い闇を意味しているんです。この映画にミステリー要素があるとすれば、この「持ち回り」という言葉の意味と、それが後に「交換殺人」を意味していると明かされた後に、ではその「交換殺人」とはなにかという疑問くらいです。

ただ、この「持ち回り」というネタも、その一端がすぐに明かされます。皆が留守のときに紀子は隠された注射器や血のついたロープを見つけてしまいます(はやっ!…)。怖くなって逃げようとする紀子に、昭江たちは「おうち」の役割を話します。「おうち」はメンバーのそれぞれの DV 加害者を自殺や事故を装って順番に殺害していき、それが完了した女性は「おうち」を卒業していくという「持ち回り」のシステムで運営されているのです。

看護師の路子は DV 被害で入院してくる女性の性格や環境を見極めてリクルートしてくるということです。

紀子は「おうち」に残る選択をします。

DV 被害者 薫の選択

冒頭のシーンで海に投げ込まれたむつみの死体が上がります。所轄の刑事たちが捜査に当たり、薫(奈緒)も加わっています。

この映画、時間経過がはっきりしていないんですが、トータルとしては2年くらい、ここでも冒頭のシーンから随分経っているようです。

結局、この事件は早々に自殺と断定されてしまいます。しかし、薫はむつみの身辺調査をするうちに同居人の男から暴力を受けていたことを突き止め、殺人の可能性を考え捜査を続けます。

この後は、この薫の捜査と紀子の「おうち」での生活が並行して描かれていきます。

最初にやはり吉野亮平監督はうまいと書きましたが、実は最初しばらくは、んー、ちょっと…と感じながら観ていたんです。ところがですね、北村匠海さん演じる晋一が登場するや空気が一変するんです。ほんと、北村匠海さんはすごい俳優さんです。

薫は神奈川(だったと思う…)の一地方の所轄刑事です。その職場に突然夫の晋一(北村匠海)がやってきます。立ち姿だけで、怖っ、ってなります(笑)。晋一は警察庁(神奈川県警かな…)の官僚(かな…)で父親も有力者と言っていました。現在、薫が離婚調停を申し立てています。理由は晋一の DV です。後に4年間殴られ続けてきたと言っています。

薫と晋一が車の中で話すシーン、いや、話すって言葉は当てはまらず、晋一の威圧シーンです。ときに優しいふりをする晋一に薫はメンツのためでしょと突き放します。北村匠海さんもすごいんですが奈緒さんも負けていません。言い返していても長年の暴力への恐怖と抑えた怒りがその表情ににじみ出ています。

薫には晋一に精神的支配されている様子はありません。実際、自ら離婚を申し立てているわけですので、設定としては自立しているけれども晋一の圧力によって刑事という職を失いたくなかったということのようです。

この映画が薫と紀子をそれぞれ異なったタイプの DV 被害者として造型しようとしているとすれば、ちょっと紀子のほうが弱いです。紀子をもっと男性からの精神的支配による自責思考タイプの人物にしたほうがよかったように思います。

あるいは吉岡里帆さんがちょっと合わなかったのかも知れません。どちらかと言いますと、行動的な役柄があう俳優さんだと思います。配役を逆にしたほうがよかったかも知れません。奈緒さんのほうが後者のパターンに合いそうです。

紀子と薫の未来の予感

薫は上司の反対や叱責を受けながらもむつみが同居の男に殺されたのではないかと考え捜査を続けます。そんな時、その同居の男性が心臓発作(だったか…)で亡くなります。

不審に思った薫は類型の事故や自殺を調べることからむつみが入院した病院の看護師路子の周辺に同じようなケースがあることに気付きます。薫は路子にそうした事実を突きつけて問いただします。しらばっくれる路子ですが、やがて薫が自分も DV にあっていると話しますと様子が変わり「おうち」の存在を明かします。薫は「おうち」を訪れる約束を取り付けます。

この路子との喫茶店での対面シーンの奈緒さんもすごいんです。表情の奥にひそむ思いまで感じられて見ていて涙が出てきます(涙、笑)。

薫の「おうち」への訪問では特にこれといったことはなかったと思いますが、おそらく刑事としての疑念とともに DV 被害者としての好奇心もあるのだと思います。

この訪問の後だったか先だったか、「おうち」のメンバーが浜辺でくつろぐシーンがあり、紀子と昭江が話をします。この時すでに紀子には「おうち」の一員としての決意のようなものが感じられるようになっています。昭江は「おうち」のようなシェルターは他にもあり、ここは自分と路子で終わりにするつもりでいるし、また誰かが始めればいいと言っています。

ああ、そういうことね。紀子と薫の未来が見えた瞬間でした。映画の結末ですけどね。

交換殺人ってなに?

映画終盤に入り、奈美と紀子が弁護士事務所の者を装い、ある男性の元を訪れて妻と面会させるための誓約書を書くよう求めます。そして、隙を盗んで飲んでいるお茶に睡眠薬を投入して眠らせ、血管に空気を注入して殺害します。

交換殺人とはこういうことでした。つまり、「おうち」と他のシェルターの間のやり取りをするコーディネーターのような人物がおり、その指示(手紙が来る…)により、互いにまったく面識のない DV 加害者を殺害するということです。今回の場合は、「おうち」のしのぶへの DV 加害者が他のシェルターのメンバーによって殺害されるということになります。その間、しのぶはアリバイ作りのためにどこか旅行に行っています。

薫はさらなる捜査でおぼろげながらもこのからくりに気付きます。それを確かめるために再び路子に連絡を入れ、「おうち」再訪問の約束を取り付けます。

突然、晋一が「おうち」に現れます。晋一と昭江の対決です。晋一は経済犯罪の捜査を担当をしており「おうち」について調査したと話し始めます。昭江の応対は堂々たるもので、お陰様で利益は上がっていますし、税金もきちんと納めていますと返します。しかし晋一は、従業員が頻繁に入れ替わっており、その身元を調べたところ、夫や同居人が事故や自殺で亡くなっていると続けます。こわばった顔の昭江に晋一は…、

と、シーン変わり、薫が「おうち」を訪ねてきます。皆の隙をみて部屋の中を探る薫です。振り返りますと、凛(だったかな…)が鈍器を持って立っています。

さらにシーン変わり、気を失って横たわる薫、その脇には晋一がいます。

ここからは激しい暴行シーンです。昭江たちは薫を売っちゃったということですが、あまりの酷さということなのか、これも計画通りなのかよくわかりませんが、途中から皆で晋一を襲い始め、これまた激しい格闘があり、なんとか皆で押さえつけ、晋一の首に睡眠薬入りの注射を差し込みます。

新しい「おうち」

机の上の ICレコーダーから晋一が薫に暴行する音声が流れています。周りには警察の幹部の男たちが居並んでいます。そのひとりが、北川くん(晋一のこと…)にこれを聞かせたらどこかへいなくなったということだねと薫に確認しています。

薫が、私はこの音声を公開しても構いませんと言いますと、男は、君の今後の処遇に関わるぞと脅します。薫は、どうとでも好きなように(みたいな感じだった…)と言い捨ててその場を去っていきます。

かなり時が流れたと思われる後日、制服警官の薫が DV 被害者の女性を新しい「おうち」にリクルートしています。おそらくそこは紀子によって運営されているのでしょう。

感想:女性たちの連帯エンターテインメント

DV 犯罪への言及という点からすれば、犯罪の本質的なことへはまったく触れていませんのでそういう映画ではなく、女性たちがひとりではどうしようもないことに皆で力を合わせて「バカにしないでよ〜」と行動することをエンターテインメントとして描いている映画ということです。

冒頭の紀子への DV シーンもちょっと薄っぺらいですし、その周辺の音楽もいただけません。晋一の薫への暴行シーンも DV というよりも殺してやる! と言っている言葉そのままの殺人行為です。

逆に言えば、DV というものは表に出にくく、また加害者、被害者ともにその心理状態はわかりにくいことも多く、映画で描くにも相当難しいものと思われ、むしろエンターテインメントであってもこうした女性たちの連帯という視点で描くことのほうがいいのかも知れません。

しかしまあ、横暴な王様を殺した犯人を匿っているあなた、家来たちが犯人を匿っている者を言わなければと村人たちを一人ずつ拷問して殺していく時、あなたはどうするかと言われてもねという映画でした。

最初に書いたように映画としては面白かったです。奈緒さんと風吹ジュンさんが立っていました。

そう言えば、奈緒さんを知ったのも吉野竜平監督の「君は永遠にそいつらより若い」でした。レビューでは吉野竜平監督の構成力と佐久間由衣さんと奈緒さんの俳優力をベタ褒めしています。

「ファンファーレ」でも吉野竜平監督の構成力をベタ褒めです。