逃げろお嬢さん

シュールな話にできたのにと思いますが…

ほぼ原作通りにつくられています。それはそれでいいことだと思いますが、ただ、この小説、そもそも面白い話じゃないですよ(ゴメン…)。こういう原作こそ、映画にしか出来ないもの(自分で考えてね…)を注入して原作を超えるものにすべきですし、この原作なら出来ると思うんですけどね。

逃げろお嬢さん / 監督:伊藤ちひろ

ネタバレあらすじ

原作は吉田修一さんの『逃亡小説集』の中の一編『逃げろお嬢さん』です。今週公開される映画の一覧を見ていてなんとも奇妙なタイトル(笑)だなあと目がいき、吉田修一さんの小説だと知って 2、3日前に読んだところです。

詳しい物語の内容は上のリンクにありますのでよろしければどうぞ。

ドッキリとの思い込みが肝なんだが

浅間山麓で温泉宿を営む康太(井口理)が若い頃からファンであるアイドル鮎川舞子(深川麻衣)と遭遇し、驚き、また興奮しながらもこれはドッキリカメラに違いないと思い込みます。なぜならその直前、康太は鮎川舞子が行方知れずになっているとのニュース速報を見、さらに夫が麻薬所持で逮捕されたとの記事をスポーツ新聞で見たばかりなんです。こんな偶然が続くはずがない、これはドッキリに違いないと考えたということです。

このドッキリだと思い込む設定をどうするかがこの原作を映画化する際の肝なんです。率直に言えばこの設定だってしょうもないとは思いますが、少なくともこの原作を映画化するのであればこの設定にこだわらなければ他にはなにもないです。アイドルが売れなくなって結婚し、夫に誘われて薬物に手を出す話なんて箸にも棒にもかかりません。

ごめん、そうでもないですね、それなりの視点でやればかかります。とにかく、この康太の思い込みをマジにやるか、それとも非現実的にするか、たとえば康太の脳内妄想的にするとか、マジさが行き過ぎてちょっと危なくするとかです。

この映画は前者でやっているんです。チャレンジャーということになります。

中途半端な内なる声のモノローグ

康太は買い出しから温泉宿に戻る途中にパンクしたまま走る車を見つけ、知らせようと追い越して止めさせます。その車に乗っていたのが舞子です。ニュース速報に新聞記事にドライブインの店主や客の振る舞いにと、普段ありえない偶然の連続にこれはドッキリに違いないと思い込み、どこかにカメラがあるはずだとキョロキョロしたりします。

原作では最後まで一貫して康太はその思い込みの中にいます。映画ではそれを康太の内なる声としてモノローグで入れています。それ以外は俳優任せです。これは場数を踏んだ俳優でも相当難しいでしょう。

原作では語り手が康太と舞子で交互に変わりますのでさほど内面的な記述がなくてもそれらしく進んでいきますが、映画でこの手の演技をするのは誰にでも出来るものはありません。後半になりますと井口理さんの康太はドッキリとの思い込みなどすっかり忘れてしまっています。ドッキリを忘れて本気になるという演出なんでしょうかね。後半になりますとモノローグもほとんどなく中途半端に終わっています。

パンク修理をした康太は行き先のなさそうな舞子を温泉宿に誘います。この後は舞妓が他の客に見られてちょっとした騒ぎになり車で15分ほどの山荘に移動します。そして舞子自身が薬物を使用していたことが判明し、従業員からの電話で康太の耳にも入ります。

映画はこのあたりの康太の行動がむちゃくちゃ中途半端なんです。康太は従業員との電話を舞子がいる場所でしていますよね。原作もその通りで、あれはいまだ康太はドッキリカメラのための演技をしているつもりなんです。映画ではそれがわかりませんので、なぜ場所をかえて話さないのって見えてしまいます。

演出ができていないです。

せめて逃げろ!と叫べばいいのに

そしてラストシーン、山荘に警察がやってきます。康太は太い薪を持って出ていき、穏やかに話しかける警官にいきなり「でていけ!」と薪を振りかざします。そして、下手くそな乱闘シーンがあり、そこに舞子が出てきて大人しくパトカーに乗り込み、それを倒れた康太が草むら越しに見て舞子が消えていくカットで終わります。

康太は放置されて終わっていました。公務執行妨害で逮捕しなくっちゃ(笑)。

原作では最後は舞子の一人称視点になっていますので、康太の行動が映画と同じような感じであっても読み手としては舞子視点になります。それを想像すればむちゃくちゃシュールなシーンが浮かんでくるじゃないですか。

アイドルが自分のファンであるだけの関係で自分を守ろうと後先など考えず警官と対峙して大暴れする男を窓から見ているんですよ。こんなシュールなシーンってないと思いますけどね。

原作では逮捕シーンはありません。

感想:この原作をマジでやっちゃいけない

一体誰がこの原作を映画化しようと考えたんでしょうね。それが一番知りたいです。いくらなんでも伊藤ちひろ監督じゃないでしょう。

「サイド バイ サイド 隣にいる人」ふうにすればよかったのにと思います。