見上げれば、空からデリバリー
予告編で、これ、誰? と思い、森田剛さんかと、「ヒメアノ〜ル」や「前科者」の印象しかありませんので興味を持って観てきました。

人生を悟った土屋輝一
森田剛さんが42歳の漫画家アシスタント土屋輝一を演じています。漫画業界がどういう構造になっているかわかりませんが、この映画を観ただけでも漫画家のアシスタントというのは皆が皆独り立ちを目標としている世界だということはわかります。
ですので42歳で未だアシスタントということで映画をつくるとすれば、おのずと人物設定は限られてきます。漫画家になる夢を持ってこの世界に入ってきたけれども芽が出ずに20数年経ってしまった人物ということです。後はその心の中をどう描くかだけです。
結論から言いますと、この土屋輝一の人物像、中途半端ですね。
どういう人物に描きたいのかわからないということです。20代なのか10代なのか、漫画家になろうとしたときにどれほどの気持ちがあったのかも伝わってきませんし、その後どれだけの挫折を味わったのかも伝わってきませんし、20数年の間に独り立ちしていったアシスタント仲間をどう思ったのかも伝わってきませんし、今、若いアシスタントに囲まれていることをどう思っているかも伝わってきません。
まあ、人生を悟った土屋輝一なんでしょう。
キービジュアルの土屋輝一の吹き出しに「夢を叶えるってそんなに大事?」とありますのでそれで正解という映画なんだと思います。
意味のないパート分け
でもまあ、そんな話、面白くないですね。悟ったなら悟ったで徹底的に悟ってくれないと、ということです。
3つのパートに別れたつくりにはなっていますがほとんど意味はありません。それぞれのパートにタイトルがついてはいましたがそれぞれテーマがあるわけではなく状況の変化みたいなものがあるだけです。
ひとつ目は漫画家吉住はるを(武田鉄矢)の連載物の最終巻が完成するまでを登場人物の紹介も兼ねて描いています。次のパートに絡んでくる人物としては、編集者の潮田ユキ(森川葵)と新しくアシスタントとして入ってくる山田ポテト(川上友里)の二人です。
輝一にこれといったキャラの押し出しはありません。ベテランアシスタントとしての淡々と仕事をこなしていますし、独り立ちしていった元アシスタントがやってきても、いわゆる嫉妬といった感情を見せることはありません。ときどき万年アシスタント(あえてこの表現にした…)として一般的にそうだろうと思うような台詞を吐くだけです。
ポテトは40歳であり、これまで電気関係の仕事をしていたと言い、ラーメン漫画を書いています。ユキはその漫画を評価しているようで編集会議にかけたりしています。また、輝一が持ち込んだ漫画にはさらにブラッシュアップということでと不採用と言っています。
このパートの最後は、吉住はるをの一旦完成した最終巻がはるをのひらめきで締め切り間際で書き直しになり、それでもなんとかなるものさで完成して終わっています。
ふたつ目のパートはユキが輝一に二人で(三人で…)漫画をつくりませんかと持ちかけます。ユキは担当作家の吉住はるをを他社に取られて編集長(阿部寛)から叱責され、一念発起したということです。
ポテトのラーメン漫画のコンセプトと輝一の技術(ということだと思う…)と自分の編集者としての能力で勝負しようとしたということです。ラーメン店を取材したり、ポテトの実家の話があったりして、漫画は無事読み切り物として掲載されていました。
このパートはそのままフェードアウトしたんでしょうか、それ以降ポテトは出てこなかったような、とにかく中途半端です。
そして、最後の3つ目のパートでは…と、これがよくわかりませんが、多分輝一の私生活に焦点を合わせようとしたんだろうと思います。
輝一には別居中の妻土屋莉花(松本まりか)と娘ひかり(早瀬憩)がいます。莉花は声優(多分…)として売れっ子となっています。ひかりは輝一のもとで暮らしています。
それで、何だ? 何があった? 記憶していません(涙)。離婚したこととひかりが美術大学に進学することと吉住はるをがユキの出版社に戻り、輝一も再びアシスタントとして働き始めていました。
そしてラストシーン、30年後のワンシーンがあります。相変わらず輝一はアシスタントをしています。ただそこは輝一の自宅であり、先生は娘のひかりです。
感想:オチがすべてを現している
率直に言って、物語が物語だけにもっとテーマをはっきりさせないと持たないです。
悲哀なのか、ゆる〜い話なのか、逆転ものなのか、確執もの(それはないと思うけど…)なのか、映画の軸をはっきりさせないと映画になりません。結果、最後にしょうもないオチで終えるしかなくなります。
公式サイトに「是枝裕和監督率いる映像制作集団「分福」の新鋭、森本晶一(初監督・原案・脚本)&佐藤快磨(『泣く子はいねぇが』(20))のダブル監督による映画」とありますが、監督が二人ってのがあまりいい方に出なかったのかもしれないですね。
それに「助監督という仕事を長く続けた森本監督が自身の経験から着想を得た」ということらしく、それでこの映画というのはやるせなさ過ぎます。
森本晶一監督の方はこれが長編デビュー作、佐藤快磨監督の方は「泣く子はいねぇが」、出演は仲野太賀さんと吉岡里帆さんでした。この映画は観ています。
申し訳ないのですがいいことは書いていません。