イタリア人のシルヴィオ・ソルディーニ監督が描くナチスもの
ナチスものはもう結構とは思っているのですが、映画.com の紹介文の「エマの瞳」が目に入り、ん、見ている映画だなあとサイト内を検索して思い出しました。シルヴィオ・ソルディーニ監督はイタリアの方ですので、なぜ? と思い、またその映画にも悪い印象はありませんので観てみました。

ネタバレあらすじ
なぜイタリア人でイタリア在住(だと思う…)のシルヴィオ・ソルディーニ監督がナチスもの? と思いましたら、この映画には原作があり、その作家ロッセラ・ポストリノ(Rosella Postorino)さんもイタリア人であり、イタリアで発売されたイタリア語の小説ということからのようです。
この小説について、Amazon では「第二次世界大戦中のドイツにおいて、実際に存在した「ヒトラーの毒見役」の話を基に描かれた国際的ベストセラー小説!」と紹介されています。
その「実際に存在した「ヒトラーの毒見役」」というのがマルゴット・ヴェルクさんというドイツ人女性で、95歳の誕生日に初めてつらい過去を語ったそうです。それを伝えた「Il Post」の2013年4月4日の記事があります。
この記事を読みますと、ナチスの将校との性的関係がレイプであったと語っていることを除いて映画はかなりヴェルクさんの話にそっていることがわかります。
また、そもそものヴェルクさんの話の信憑性については裏付け資料が一切ないために毒見役の存在については疑いを挟む意見もあるとのことです。
メインを補完しないサブストーリー
ということで、映画です。
いきなり言うのもなんですが、残念ながらそもそものプロットに映画的に核となる面白みがありません。まあこれが事実であれば生死に関わることですので面白みというのもなんですが、結局毒見役そのものから想像できることは死を怖れる恐怖しかなく、毒見に関して映画が描いているのもそれだけです。
結局それだけでは持ちませんので脇ネタをいくつか入れるしかなく、主役のローザと親衛隊将校の情事(ふるっ…)や毒見役となった女性たちの人間関係、そしてその一人であるユダヤ人であることを隠している女性との友情などで物語がつくられています。
サブストーリーで軸となるプロットを補完していくことはどの映画でもあることなんですが、この映画の問題はそれらが重層的にひとつのうねりのようになっていかないことです。それが映像処理や編集にも現れています。各シーンがぶつ切れのような感じで一瞬黒味が入って直接的な関連のないシーンにつながっていくことが無茶苦茶多いんです。観ていても集中する意識が途切れるということです。
毒見役の女性たち
映画冒頭、ローザ(エリーザ・シュロット)がベルリンでの空襲を逃れて夫の両親が暮らす東プロイセン州のラステンブルク(現在のポーランドのケントシン)にやってきます。後にローザが語るところによれば、出征した夫からの連絡は3年もなく、父親は数年前に病死、母親は空襲で亡くなったためにこの地にやって来たということです。
1943年のことです。ある日、突然ナチス親衛隊がやって来て有無を言わせず連行されます。車にはすでに数人の女性が乗っています。
集められた女性は7人、役目はヒトラーの食事の毒見役です。当然最初はみな怯みますが、そういつもいつも毒が入っているわけはなく、またヒトラーがベジタリアンだったために料理自体に見た目の華やかさはないものの、みな普段満足に食べられているわけではなく、さらに給料(月200マルクだったか…)も出るのです。
という毒見役ですので次第に映画的な緊張感もなくなっていき、サブストーリーに頼ることになります。まず女性たちの人間関係です。最後まで関係してくるのはエルフリード(アルマ・ハスーン)、最初は互いに警戒しているように描かれていましたが後に親しく話すようになり、最後に実は自分はユダヤ人だと告白します。映画はこれを最後のシーンでクライマックス的に使っています。
まあ、仮にこういうケースがあるにしても誰にも言わないと思いますけどね。それにラストシーンではなんの前振りもなく親衛隊の将校にバレていました。こういうゆるゆるな設定なのはイタリア映画だからなんでしょうか(ゴメン…)。
またこのエルフリードは看護師らしく、女性たちの一人(夫が出征中…)が同居中の誰か(夫の弟とか?…)との関係で妊娠してしまい、その堕胎を秘密裏にやっています。ナチス政権下ではドイツ人を殺害したということで死刑ということです。エルフリードが追われる最初の理由はこの件で、それが最後にはユダヤ人であることになっていました。
女性たちの中に一人ヒトラーの信奉者がいますが、特に映画的な役割はありません。
親衛隊将校との逢瀬とワルキューレ作戦
親衛隊の将校アルベルト(マックス・リーメルト)が赴任してきます。ローザはこのアルベルトと関係を持つことになるのですが、これがまったく意味不明です。これもイタリア的なんですかね(ゴメン…)。
ある夜、ローザが家で寝ていますと明かりがぴかっと光り、外を見ますと誰かが立っているんです。ローザも最初はドキッとして隠れますが、それが何日か続きますと、ある夜、自分からも明かりを点灯して返すのです。私は夫が戦線から逃亡して帰ってきたのかと思ったんですがとんでもありませんでした。ああ、その前に夫が行方不明になったと通達が来ていました。
ローザも望んでの密会(ふるっ…)です。なんともイタリア的です(くど…)。映画の後半はこれで持たせようとの意図が見え見えです。今どきちょっと無理でしょう。
そしてもう一つ、ヴァルキューレ作戦(ワルキューレ作戦)を使ったヒトラー暗殺未遂事件もサブストーリーとして取り入れられています。
1944年7月20日にヴォルフスシャンツェ(狼の巣)で爆発が起きます。この映画では事件についてはまったく触れられておらず、女性たちが家に帰られなくなり監禁状態になったことだけが描かれています。興味があれば映画を観るかリンク先へどうぞ。もちろん映画はほとんどは創作です。
そして1944年11月20日、ナチス・ドイツの敗北が濃厚となりヒトラーも狼の巣から撤退することになり、ローザたちの毒見役もお役御免となります。ソ連軍が間近に迫っており、ローザもベルリン(多分…)へ逃れるため、アルベルトに便宜を図ってもらうよう頼みに行きます。アルベルトはもったいぶりますが、結構ローザに惚れている(ふるっ…)ようで最後にもう一回みたいな感じで深夜にいつもの場所に(あれ、ローザの家の納屋だよね…)来いということで行きますと、例によってアルベルトはローザに襲いかかります。が、突然中断し去っていきます。ローザはといえば、実はその納屋にはエルフリードを匿っていたのです。
よくわからん(笑)。エルフリードは堕胎の行為がバレて追われている状態です。
ということで、二人は軍用列車にボランティア(字幕だけど変だよね…)として乗ることになり、しかし、エルフリードはアルベルトに見つかり射殺されます。その時なぜかいきなりエルフリードは本名で呼ばれ、つまりユダヤ人であることがバレていました。
という映画です。
感想:特に思いれなく淡々と描く監督か
シルヴィオ・ソルディーニ監督は1958年生まれですので現在68歳くらいの監督です。IMDb では1982年からコンスタントに監督作品が並んでいますので実力のある監督ということだと思います。ただ、日本で劇場公開された作品はさほど多くなく、イタリア映画祭で上映されているようです。
私が観た「エマの瞳」のレビューではやや物足りなさを感じつつも、内容が視覚障害者と健常者の恋愛であるにもかかわらず情緒的に描いていないところに好感を持った映画でした。
過剰にドラマチックに描くことをしないという意味では好感は持てますが、逆の見方をすれば観る者の意識を引っ張っていくだけの映画的強靭さが足りないということになり、この映画でも淡々と進んでいくだけの力のない映画になってしまっています。
ところで、自分は毒見役だったと語ったマルゴット・ヴェルクさんの夫は戦後に帰還し1980年に亡くなるまで一緒に暮らしたということです。ヴェルクさんはこの過去を告白した翌年の2014年に亡くなっています。