神話は水中ではなく地上にあるようだ 前作(前前作?)の「鉱 ARAGANE」と言い、この「セノーテ」と言い、タイトルづけや宣伝ヴィジュアルがうまいですね。映画そのものよりも(ペコリ)タイトルが印象づいており、この「セノーテ」も見てみようとなりました。セノーテ / 監督:小田香公式サイトさえ見ずに行きましたので何も知らなかったのですが、愛知芸術文化セン...
河瀬直美監督の原作ものを見る(原作:辻村深月) 河瀬直美監督の映画で原作ものを見るのは初めてです。そのせいか物語の芯はしっかりしていますし、物語としてはきっちり収まっています。ただ内容が内容なだけにこれだけリアルさを求めてつくられていますと(私は)かなり引きます。朝が来る / 監督:河瀬直美ネタバレあらすじ河瀬直美監督らしさ?俳優は皆うまい映...
世界最高の辞書OEDの誕生秘話(はマッチョな男の物語?) メル・ギブソンがサイモン・ウィンチェスター著『The Professor and the Madman: A Tale of Murder, Insanity, and the Making of the Oxford English Dictionary』の映画化権を得たのが1998年、公開までに20年を要...
同情の涙に消費させてはいけない チョ・ナムジュ著『82年生まれ、キム・ジヨン』が韓国で社会現象になっているとの話や邦訳が出たことが話題になった小説の映画化です。原作未読でこの映画を見た率直な感想としては、予想とは随分違い、社会現象となったことになかなか結びつかない印象です。82年生まれ、キム・ジヨン / 監督:キム・ドヨン映画で描かれているのは、専業...
蒼井優は若尾文子になれたのか? 不思議な映画です。なぜこんな昔くさい映画を撮ったのでしょう?ドラマの内容ではありません。映画のつくりがです。スパイの妻 / 監督:黒沢清今年2020年のヴェネツィア映画祭で最優秀監督賞(銀獅子賞)を受賞しています。なのに「劇場版」となっていますので、え? と思ったのですが、今年の6月にNHKのBS8Kで放送されたものの...
サンフランシスコ フィルモアへの愛がほとばしる かなり個的で地域性の強い映画ですので共感するかどうかという見方では難しいのですが、主人公ふたりの関係はとても面白いですし、映画のつくりに新鮮さを感じます。ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ / 監督:ジョー・タルボットあらすじジミーの街への愛情と郷愁演劇的なシーンモントはジョー・タルボット...
トランスジェンダーはミッドナイトに生きる存在ではない 悲劇物語で涙を流させることは簡単ですが、いつまでもこうした昭和的ステレオタイプな手法に頼っていていいのかなあとは思います。ドラマパターンは昭和で言えば「日陰の女」です。もちろん感動すること、あるいは感動できることはいいことですが、その感動がどこから来るのか、何に感動しているのか、その感動によって自分の何が変わる...
芦田愛菜の演技と大森立嗣監督の演出で日日是好日以来の秀作に! 大森立嗣監督というのは(私には)とても不思議な監督で、前作の「MOTHER マザー」でも散々に書きながらなぜか見に行ってしまうという監督です。なにか感じるところがあるからだとは思いますが、それにしても、これも毎回書いていることですが出来不出来の落差が激しい監督です。この映画はよかったです(笑)。...
アメリカン・ホームコメディで中国を描く 映画のつくりに新鮮さとは違った何かちょっと変わっているなあという感じを受け、なんだろうと考えていたんですが、この映画、中国的な日常生活感をアメリカ的ホームコメディのセンスで描いているからですね。おそらくそうしたカルチャーミックス的な視点が、あるシーンではどことなくノスタルジックな味わいになったり、また別のあるシーンではちょっ...
優れたドキュメンタリーはドラマになる 基本的にはセルフドキュメンタリーなんですが、他者であるキアーとザックのふたりにビン・リュー監督自身を投影することで監督自身の意識を客体化し、それにより映画自体を社会性のある客観的な映画に昇華させ、また映画そのものとしても見やすくすることに成功している優れたドキュメンタリーです。行き止まりの世界に生まれて / 監督:ビン・...
ガエルくんがワナワナワナ パブロ・ラライン監督ですね。前作の「ネルーダ 大いなる愛の逃亡者」は難しい映画でした。この「エマ、愛の罠」は内容は難しくないのですが、映画のつくりに特徴があって、そちらはなかなか意図が分かりづらい映画です。エマ、愛の罠 / 監督:パブロ・ララインまずあらすじです。ダンサーのエマと振付家の夫ガストンがいます。子どもが出来なく...
「わたしはロランス」のグザヴィエ・ドランが帰ってきた! グザヴィエ・ドランが帰ってきた! という映画です。 帰ってきたというのは自分のやりたいことを思う存分やっているという意味で、映画のつくりは「わたしはロランス」に近いものがあります。実際、製作、監督、脚本、編集、衣装、モンタージュを自らやっており、その上出演までしています。マティアス&マキシム / 監督...
目立たない方が良い映画という悲しい世界 タイトル通りの映画です。1927年に映画がトーキーとなってから現在までの映画音響の歩みと Sound department の現場ではどんなことが行われているかの触りを紹介している映画です。ようこそ映画音響の世界へ /監督:ミッジ・コスティン映画制作の上で評価される部門と言いますと、まず監督と俳優、そして脚本、美...
鵞鳥湖の夜は…いまだ明けず。 なんなんでしょう…、まったく心が騒がない(動かない)映画ですね。動かないのは見ている方が悪い? いやいや、そうでもないでしょう、テレビのサスペンス劇場でも(見ていませんが)もう少し、この先どうなるんだろう? とか、誰が犯人なんだろう? くらいには心は動きます。2014年のベルリン映画祭で金熊賞を受賞したディアオ・イーナン監督の受賞後...
居場所を求めて2000km、少年と馬の放浪の旅 劇場公開時に見ようかどうしようかと迷った映画です。宣伝チラシの印象から少年と馬の交流を描いたほのぼの系のヒューマンドラマだと思い込んでしまったことと前作の「さざなみ(2015)」が映画としてさほどよく思えなかったことからです。ところがDVDで見てみましたら、ほのぼの感は一切なく少年チャーリーの激烈な人生そのものでし...
あらすじ/ラストレターよりは感傷さが薄まり見やすい 「ラストレター」の中国版です。岩井俊二監督自ら監督しています。ただリメイクというわけではなく、この中国版のほうが先に制作されているようですし、それにリメイクですと新たな視点とか他文化の視点とかが入りますが、この映画はほとんど「ラストレター」と同じつくりですし、全体としては同じように叙情的、かつ感傷的です。チ...
難解複雑さは愛が紐解く クリストファー・ノーラン監督、私はあまりよく知らなく、「ダンケルク」を劇場で、その後「インターステラー」をDVDで見ただけですが、この映画の宣伝コピーなどをみていますと名前で客が呼べる監督のようです。確かに上の二作を見ただけの私でも、やはりこの監督の映画を見るのであれば劇場へ足を運ぶべきだと思います。TENET テネット / 監督:...
ソニア・ヴィーゲット復権のノルウェー国内向けの映画 いくら日本人がナチス絡みの映画を好きだからといってもこの映画は日本じゃ無理でしょう。「第二次世界大戦中、ナチス占領下のノルウェー。女優として活躍しながらスパイとしてナチスに潜入した女性の驚愕の実話。 激動の時代を生き抜いたソニア・ヴィーゲットの真実の物語。」という映画です。ソニア ナチスの女スパイ / 監...
ボーイズラブは純愛の幻を見る 最近では映画を見ますと、これを女性で描いたらどうなるんだろうとか男性で描いたらどうなるだろう?と必ず考えてしまうようになっており(笑)、この映画でも今ヶ瀬を女性で描いたらどうなるだろう?と考えてみましたら、修羅場だ!となる凄い映画でした(笑)。窮鼠はチーズの夢を見る / 監督:行定勲しかし、映画はまったく修羅場になどな...
昭和ノワールものを平成コメディ(ギャグ)タッチで描く 劇場公開時には三池崇史監督が「初恋」?と興味を持ったものの何となく見逃してしまいましたがやっと見られました。今やヤクザ映画(ではないけれど)もギャグなしでは成立しないということのようで、その意味では「初恋」のタイトルもギャグなのかも知れません。初恋 / 監督:三池崇史まず、テレビ画面じゃ暗くて細部...