絶滅収容所を生き延びた実在のポーランド人ボクサーの3年間 アウシュヴィッツへ最初に大量輸送された囚人のひとりでありながら戦後まで生き延びたポーランド人ボクサー、タデウシュ・ピエトシコフスキさんの物語です。1991年に74歳で亡くなっています。アウシュヴィッツのチャンピオン / 監督:マチェイ・バルチェフスキタデウシュ・“テ...
社会風刺も時にブーメランになる 昨年2021年のベルリン映画祭の金熊受賞作です。この時、銀熊の審査員グランプリを受賞しているのが濱口竜介監督の「偶然と想像」です。1年前のことなのにコロナ(COVID-19)がどんな状況だったのかすっかり忘れてしまっています。日本は比較的落ち着いていましたが、ヨーロッパは大変な時期だったようでこの年のベルリンはオンラ...
妊娠や母性は選択肢であるべき アフガニスタン人(の表記は正確ではないが)によってアフガニスタン国内で2019年に製作された映画です。製作年が重要なのは、アフガニスタンは2021年8月15日にブッシュが始めた20年の戦争を経て再びタリバン政権に戻っているからです。監督のサハラ・カリミさんはタリバンが政権を掌握した直後にカブールを脱出しウクライナに逃れ...
レオス・カラックス監督とスパークスによるロックオペラ 忘れた頃にやってくるレオス・カラックス監督です。「ポンヌフの恋人」までの三作は好きな映画ですので茶化しているわけではなく、そのアレックス三部作で監督としては燃え尽きたのかなと思っていましたら、8年後に「ポーラX」、次が13年後の「ホーリー・モーターズ」、そしてこの「アネット」が9年後の2021年です。...
人はひとりでは生きられない、思い出にも生きられない 人間とロボットやアンドロイドとの恋愛を描いた映画ってたくさんありそうですが、なかなか思い浮かびません。ググってみましたら「her/世界でひとつの彼女」「エクス・マキナ」、どちらも見ていませんので浮かばないはずです。考えてみれば「ブレードランナー」も、あまり直接的なシーンはありませんが「ブレードランナー20...
特別を求めない平凡さを描け 2021年最後の映画になりました。一年の最後に見るにはちょっと…という映画です。平凡を映画にすること平凡を平凡な映画にすることロスジェネ、はざま、ゆとり世代特別を求めない平凡さを描け2022年は圧倒的な映画を期待する明け方の若者たち / 監督:松本花奈平凡を映画にすること...
閉じた円環、つくりもの過ぎて多くは伝わってこない 2019年の東京国際映画祭で最優秀女優賞と観客賞を受賞しています。最優秀女優賞って誰が? と思いましたら、マリオン役のナディア・テレスキウィッツさんでした。主だった女性の俳優は3人ですが、特別目立っていたわけではありませんのでいろいろなにかあるのでしょう。サスペンスのジャンルかと思いますが、英題の「Only T...
アイダの苦しみを共有できるのなら世界は… 日本での公開は3作目になるヤスミラ・ジュバニッチ監督、2006年の「サラエボの花」はベルリン映画祭で金熊賞を受賞しています。1990年代始めのボスニア・ヘルツェゴビナ紛争下で起きた悲劇的な過去を乗り越えようとする母娘を描いていました。この映画「アイダよ、何処へ?」も同じくボスニア・ヘルツェゴビナ紛争下の話ですが、まさしくそ...
娘の死のせいか、色濃く漂う破滅欲求 「What is youth? A dream. What is love? The dream’s content.」キェルケゴールの言葉から始まります。直訳では「若者とは何ですか?夢。愛とは何ですか?夢の内容」となりますが、映画を見た印象からすれば、「若さとは何だ? 夢さ。愛とは何だ? 夢を見ていただけさ」といったニュアンス...
俳優たちの本音のぶつかりあいがなく緊張感がない 昨年(2020年)末の「生きちゃった」から今年に入ってついひと月前の「茜色に焼かれる」、そしてこの「アジアの天使」と続けざまに石井裕也監督の映画を見ています。たまたま公開が重なったということなんでしょうが、映画の内容や出来からすると、何を撮り急いでいるんだろう、焦りでもあるのかしらと思ってしまいます。アジアの...
子育ては母親の仕事か?あたかもそう言っているかのような… 椰月美智子さんという作家の同名の原作があります。知らない作家さんですが、児童文学でたくさん賞をとっているようです。ただ、この「明日の食卓」は母親の話ですので大人向けの作品です。下の画像にあるように菅野美穂さん、高畑充希さん、尾野真千子さんの三人が同じ「石橋ゆう」という名の10歳の息子を持つ母親を演じています...
石井裕也監督、覚醒す!と思いきや… 石井裕也監督、覚醒す!これまでの石井監督の印象は、映画としてうまくまとめる能力は高いけれども、今の時代や社会にあまり直接的なコミットメントをしない印象でしたが、この映画はちょっと違っていました。たまたまの1本なのか、なにかが変わっていく初めの1本なのか?茜色に焼かれる / 監督:石井裕也世の中は理不尽なことばか...
実在の人物をセクシュアリティ(だけ)で描くことの功罪 ケイト・ウィンスレットさんが演じている「化石採集者で古生物学者(ウィキペディア)」のメアリー・アニングさんは実在の人物です。ということをこの映画で知りました。男女差別ゆえに歴史に埋もれている女性が再発見されることはいいことだと思います。が、こういう取り上げ方はどうなんだろうとは思います。アンモナイトの目...
わかりやすさを拒否することの意味 三澤拓哉監督ってどんな人かとウィキペディアを見ていましたら1987年生まれとあり、ん? そういえば2、3日前に見た「14歳の栞」のプロデューサーや監督も同年代だったなあと、まったく関係はないのですが妙に気になったわけです。理由は、かたや時代の先端をいく(目指す?)映像クリエイターたち、かたや時代に反旗を翻す(かのような)映画制作者...
女性たちは軽やかに階層社会を超える 「あのこは貴族」とのタイトルから漫画原作のラブコメだろうとスルーしていたのですが、ちらちらと目にする細切れ情報からどうも違うようだと思い直し見てみましたら、ふたりの俳優に現代的な存在感のあるいい映画でした。あのこは貴族 / 監督:岨手由貴子女性たちは軽やかに階層社会を超える想像力を刺激するネタバレあらすじとちょ...
アイドルオタクの真髄を見たかったのに… 松坂桃李主演、今泉力哉監督の青春物語とありましたので見てみるかと、ただハロプロというものも知りませんでしたので(笑)ちょっとだけ調べて、ああ、モー娘。ねなどと軽い気持ちで見に行きましたら…こんな話だったのね。あの頃。 / 監督:今泉力哉アイドルオタクの話でした。あまり弾けない...
幻ではないアイヌを知り、アイヌを知るきっかけにする このところ俳優で持っている映画ばかり見ている気がしています(笑)。この映画ではカントを演じている下倉幹人くん、その澄んだ眼には差別や同化といった対立視点ではない今生きているアイヌの苦悩が反映されています。もちろん幹人くんは俳優ではありませんし、その他ほとんどの出演者がアイヌコミュニティの人々の映画です。ただ...
河瀬直美監督の原作ものを見る(原作:辻村深月) 河瀬直美監督の映画で原作ものを見るのは初めてです。そのせいか物語の芯はしっかりしていますし、物語としてはきっちり収まっています。ただ内容が内容なだけにこれだけリアルさを求めてつくられていますと(私は)かなり引きます。朝が来る / 監督:河瀬直美ネタバレあらすじ河瀬直美監督らしさ?俳優は皆うまい映...
ホロドモール、ウクライナ、ジョージ・オーウェル、動物農場 「ソハの地下水道」のアグニェシュカ・ホランド監督の10年ぶりの新作です。と思いましたら、2017年に「ポコット 動物たちの復讐」という映画が「ポーランド映画祭2018」で上映されているようです。それにIMDbによればその間にもTVドラマをたくさん撮っています。赤い闇 スターリンの冷たい大地で / 監...
ツァイ・ミンリャン監督、坂本龍一音楽 2013年のヴェネチア映画祭で「郊遊 ピクニック」が上映された際に引退を語った(らしい)ツァイ・ミンリャン監督ですが、真意は商業主義的なシステムでは撮らないということだったらしく、実際それ以降もショートフィルムやドキュメンタリーをたくさん手がけています。この映画もそのひとつということなんでしょう。台北に暮らす12人の一...