新人俳優ジュリー・ルドリューがノンバイナリー的存在感を放つニューシネマ クロスビトゥームという、バイクの前輪を上げて走るなどアクロバティックな乗り方で公道を疾走するバイカーたちの話です。ただし、それはあくまでも背景であって、映画のポイントはその集団の中に自らの居場所を見つけようとするひとりの女性(あえてこう書くが、実は違う…)の物語です。...
親子共依存にさせない社会環境が求められるのだが… 子どもに対する虐待やネグレクトを題材にした映画は結構見ていますが、その実相を知っているかと言われますと、実際そうした場面に出会ったこともありませんし、映画でもドラマ以外には見たことはありません。当然ながらその現場の映像が世に出てくることは考えづらく、しかしながらその体験者が自らの体験を語ることでその...
ポルノスターは社会の底辺で永遠の夢を見る… 「タンジェリン」「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」のショーン・ベイカー監督、一昨年2021年のカンヌ国際映画祭のコンペティションに出品されています。「TITANE/チタン」がパルムドールの年です。レッド・ロケット / 監督:ショーン・ベイカー2016年はトランプの年時代の...
基本的テーマの重要性とは不釣り合いな雑なつくりの映画… 介護士の殺人という内容が内容なだけに、それにその介護士を演じるのが松山ケンイチさんですので見るのが怖くなります。2012年の日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作の葉真中顕著『ロスト・ケア』が原作です。ロストケア / 監督:前田哲挑発する犯人、興奮する検察官これは映画...
脚本と監督にレッドカード… 主演の朝比奈彩さんも、監督の雑賀俊朗さんも、名前を見るのも聞くのも初めてという映画です。ボクシング映画という点にひかれて見た、ということでもないのですが、あえて言えばそういうことです。レッドシューズ / 監督:雑賀俊朗いつの時代の映画?思わず製作年を見てしまいました。間違いなく2022年です...
人口の2倍の羊がいるアイスランドじゃないとわからない… アイスランド映画です。監督のヴァルディミール・ヨハンソンさんは1978年生まれですので44歳くらいです。これが監督、脚本の長編デビュー作ですが、撮影や照明、そして特殊効果のスタッフとして20年くらいのキャリアがある方です。LAMB ラム / 監督:ヴァルディミール・ヨハンソン...
奇妙なシナリオとあまりに現実的な俳優たち、残る虚しさ 深田晃司監督の「LOVE LIFE」、現在開催されているヴェネチア映画祭のコンペティションに出品されています。開催が明日9月10日までですので発表は明日ですか。LOVE LIFE / 監督:深田晃司悲劇、喜劇、そして漂う空虚さ深田監督の映画は「東京人間喜劇」「ほとり...
時代の波に抗うことの意味を問う 監督のアレックス・カミレーリさんは本人が生まれる前に両親がアメリカに移住したマルタ系アメリカ人です。ですので、おそらく自らのアイデンティティに向き合うことから生まれた映画だと思います。地中海のマルタ島でルッツという伝統の木造小型船で漁をする青年の苦悩を描き、本人名で青年を演じたジェスマーク・シクルーナさんが昨年202...
PTAアンダーソン監督自身のカリフォルニア・ドリーミング ポール・トーマス・アンダーソン監督の最新作「リコリス・ピザ」、今年3月のアカデミー賞には作品賞、監督賞、脚本賞の3賞にノミネートされていましたが受賞はありませんでした。ちなみに作品賞は「コーダ あいのうた」でした。タイトルの「リコリス・ピザ」は1986年まで南カリフォルニアにあったレコードシ...
文の非実在感は女の妄想か 2020年の本屋大賞の凪良ゆう著『流浪の月』の映画化です。主演は広瀬すずさんと松坂桃李さん、共演は横浜流星さん、多部未華子さん、趣里さんといったところです。流浪の月 / 監督:李相日真実は誰にもわからない15年前の女児誘拐事件の加害者と被害者がその15年後に再会するという映画です。ただ映画...
シュールな近未来か?アンチテクノロジーか? 予告編からはもっとシュールな映画を想像していたのですが、思いのほか感傷的で叙情的な映画でした。2020年のヴェネツィア映画祭のオリゾンティ部門で上映され、コンペティション部門の審査委員長のケイト・ブランシェットさんが評判を聞きつけて鑑賞し、エグゼクティブ・プロデューサーへの就任を買って出たという映画です。...
三つの時空の融合が中途半端で惜しい 率直なところ、始まって1/3あたりまではあまりの素人臭さに(感じたということでペコリ)なぜこれが劇場公開?とため息をこらえて見ていたのですが、後半の現代の写真館あたりからは、ん? そうでもないかと気を入れ直して見た映画です。いきなりこんな書き方でゴメン、問題は多いと思いますが悪くはないです。...
1960年代のロンドンへの郷愁と悪夢の事実 映画を見る際には必ず監督をチェックします。エドガー・ライト監督ってなにか見たことあるかな? と過去の作品一覧を見ましたら、「ワールズ・エンド酔っぱらいが世界を救う!」があり、ああ、あれか、スルーだなと思ったのですが、なにか引っかかるものがあったのでしょう、見てみましたら結構おもしろかったです。いや、おも...
プロメテウス、サシャ・シュナイダーまではわかったけど… 最も苦手な映画を見てしまいました(笑)。評判だったらしい同じロバート・エガース監督の「ウィッチ」という映画も知らず、この「ライトハウス」がスリラーだということもはっきりとは認識せず、なんとなく目にした「人間の狂気」とか「幻想的」とか「美しい映像」とかの言葉に釣られてしまいました。ライトハウス / 監督...
アメリカの真実が真実とは言えない 「ラスト・フル・メジャー」という言葉は、リンカーン大統領の言葉としてよく引用される「人民の、人民による、人民のための政治」が語られたと同じ演説の中の言葉ということです。南北戦争史上最大の戦いと言われる1863年のゲティスバーグの戦いの4ヶ月後に行われた国立戦没者墓地の奉献式でのゲティスバーグ演説です。ラスト・フル・メジャー ...
ギャスパー・ノエ監督、画を点滅させるも心は点滅せず サンローランのアートプロジェクト「SELF」の一環として制作された映画とのことです。監督本人がインタビューで、サンローランのクリエイティブディレクターのアンソニー・ヴァカレロさんから「何か一緒に作品を作りませんか?」と提案されたと語っています。ルクス・エテルナ 永遠の光 / 監督:ギャスパー・ノエ ...
サンフランシスコ フィルモアへの愛がほとばしる かなり個的で地域性の強い映画ですので共感するかどうかという見方では難しいのですが、主人公ふたりの関係はとても面白いですし、映画のつくりに新鮮さを感じます。ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ / 監督:ジョー・タルボットあらすじジミーの街への愛情と郷愁演劇的なシーンモントはジョー・タルボット...
ホラーと言うよりも女たちの嘆きと悲しみの映画 「火の山のマリア」のハイロ・ブスタマンテ監督の4年ぶりの新作ということになります。この作品は昨年2019年8月のヴェネチア映画祭で上映された映画ですが、IMDbを見ますと、ほぼ同時期の2019年の2月のベルリン映画祭に「Temblores(Tremors、震え?)」という作品が出品されています。ラ・ヨローナ 彷徨...
寓話的ファンタジーなのだが寓話性が足りず 「ルルドの泉で」のジェシカ・ハウスナー監督の最新作です。主演のエミリー・ビーチャムさんが昨年2019年のカンヌで女優賞を受賞しています。ハウスナー監督の映画は日本ではほぼ10年ぶりということになりますが、2014年に「Amour fou」という映画を撮っているようです。英題は「Mad Love」ですので狂った愛みたいなニュ...
よい黒人は受け入れられ、わるい黒人は排除される なんだかわかりにくい映画だなあと思いながら、考えがまとまらず、はや3日経ってしまいました(笑)。わかりやすい映画を望んでいるわけではありませんし、この映画の場合、テーマは明快ですし描いていることはわかるのですが、描かれるのは今現在起きている現象面だけですので、言葉で語られるその背景とどうしてもうまく繋がりません。...