白鳥とコウモリ

ラブストーリー要素多めのミステリー、ただプロットに穴は多い

初めて東野圭吾さん原作の映画を観ました(多分…)。現在と過去の事件がかなり交錯している話ですのでストンと落ちる感じはありませんし、ミステリーというよりも最初に疑問が提示されてそれが説明されていくような映画でした。それにラブストーリー要素多めです。

白鳥とコウモリ / 監督:岸善幸

ネタバレあらすじ

松村北斗さんと今田美桜さん

ですのでこの映画、ミステリーファン向けじゃないかも知れませんね。私はどちらかと言いますと松村北斗さんと今田美桜さんを観てみようというほうが大きかったですので、ミステリー要素については早く答えを教えてよと思いながら観ていました(ゴメン…)。

目当ての二人、どちらも良かったです。松村北斗さんは「夜明けのすべて」で印象づいた後は名前を見れば目がいく俳優さんです。穏やかで優しい人物役がよく合います。この倉木和真も父親が殺人事件の容疑者として逮捕されたと聞いても大して動揺しないという人物なんですが、これが松村北斗さんですとまったく違和感がないんです。それに週刊誌の記者にペラペラ喋ったり、怒らずに気まで使うところとか(笑)、あれを違和感を感じさせずにやるのは結構難しいですよ。

今田美桜さんは「あんぱん」がネットでもかなり流れていましたのでそれで知り、今回初めて観ました。この白石美令役はよく合っていました。顔立ちが整いすぎているせいか私には特徴を記憶しづらい俳優さんですが、この美令は殺人事件の被害者の娘でありながら容疑者の供述書で語られる父親像に違和感をもち、その疑問を解くために自ら行動していくという気丈で毅然とした人物をうまく演じていました。

最近の日本映画ではあまり見かけなくなったいわゆる悪女もの(言葉としてよくないけど他に思いつかない…)とか、意外といけそうな気がします。若尾文子さんとか岩下志麻さんとかのイメージです。

とにかく、次回作、興味が持てる映画であれば観てみようと思います。

33年隔てた2つの殺人事件

さて、映画です。

冒頭に33年前の殺人事件の容疑者が拘置所の中で首をつって自殺するシーンがあります。続いて映画の現在2017年のシーンになり、弁護士の白石健介(中村芝翫)が殺害されて発見されます。この2つの殺人事件がどう結びつくかがミステリーになっている映画です。

刑事の五代努(柄本佑)を中心にして捜査が始まり、元受刑者にあの人を恨む人などいないといったシーンを入れて白石健介が善良な人物であると印象付けています。

まずここで、ああ、これはひっくり返りますねと思う人は心が濁っています(笑)。

捜査により白石健介が殺害される直前に倉木達郎(三浦友和)と会っていることが判明し、本人に当たりますとあっさり自分が殺したと自供し逮捕されます。さらに33年前の殺人も実は自分がやったものだと告白します(時効は成立している…)。

まあこれも嘘だということは誰にでもわかりますので、結局この映画は殺人事件の犯人が誰かということよりもこの二人の関係と33年前の殺人事件がどう結びつくかということが軸になっているということになります。それを探っていくのが刑事ではなく、加害者の息子の倉木和真(松村北斗)と被害者の娘の白石美令(今田美桜)です。

一般的にはあまり考えられないこの二人が協力して謎を解き明かしていくことが面白いということかと思います。ただ、もう少し二人が葛藤するシーンを入れておかないと映画としてちょっとたるいです。

特に美令の方です。なぜかと言いますと、まず一番に疑問を感じるのが美令のほうなんです。美玲は、倉木達郎の供述調書には自分の父親像とはまったく違った人物が書かれていると感じるのです。供述では、倉木達郎が父親と初めて会ったのは、中日巨人戦を見に行き、たまたま隣の席になり一緒にビールを飲んだとなっていますが、美令には父親がひとりで野球を見に行くとは考えにくく、また、その日父親は抜歯をして医師からも飲酒は止められており、生真面目な父親が酒を飲むなど考えられないと言うのです。

これにいたる美令のシーンが少なすぎます。失意があってそれをバネにみたいなシーンがないとこの後の美令が生きないです。和真よりも美令を中心にした映画にすべきだったかも知れませんね。なにせ和真の方は、懐が深いと言いますか、父親が犯罪を犯したという実感があるようには見えないと言いますか、特に日常と変わるところはありません。まあ、そういう人物でも違和感なく演じられる松村北斗さんがすごいということではあります(笑)。

事件の真相を探る和真と美令

ということでこの二人が事件の真相を探っていくことになります。

この映画、刑事の五代努(柄本佑)の露出がかなり多いのですが、中盤以降は刑事としての役回りはまったくありません。最後にミスった!と言って真犯人を見つけていました。この映画が刑事ものではないからとはいえ、倉木達郎を自白のみで逮捕したり、凶器など物的証拠の話などまったくせず一見落着というのはちょっとさみしい話です。

長くなりそうですので簡潔にいこうと思います。がしかし、かなりややこしいです。

33年前の1984年です。悪徳金融ブローカー殺人事件があり、その犯人としてある男が逮捕され、検察の暴力的な取り調べがあり、その男は拘置所で自殺しています。その男の妻(風吹ジュン)とその娘(井川遥)は、弁護士殺害事件の2017年現在、東京で小料理屋をやっています。娘は父親が殺人事件の加害者であることから離婚して、その息子は父親と共に暮らしています。

倉木達郎はその事実を知り、償いのために冤罪家族に遺産のすべてを贈りたいと弁護士の白石健介に相談したと供述しています。映画ではなぜ殺害にいたったかについてはあまり突っ込まれていなかったと思います。

そして、すでに書きましたようにまず美令の気づきによって倉木と白石の出会いの嘘が判明し、さらに和真が父親の住まいの整理中に地元の弁護士の名刺を見つけ(だったと思う…)、その弁護士に遺産のことを相談していたことがわかります。これにより、倉木と白石がどういう知り合いだったのかがまったく白紙状態になります。

続いて、美令が父親の古い写真の中から幼い父親と見知らぬ女性が並んで写っている写真を見つけ、その女性が父親の祖母だとわかります。また、その写真を見せられた和真はその場所が実家に近い愛知県の常滑であることに気づきます。

和真と美令、事の真相を知る

二人はその女性を探しに常滑に向かいます。このシークエンス、しばらくは二人が常滑の街を散策するようなシーンが続きかなり冗長です。恋愛要素多めに感じるのはこのシークエンスのせいだと思います。

とにかく、その女性を知る高齢の人物を探り出して話を聞きます。ここがこの映画の最重要ポイントです。

当時、その女性のもとには東京から息子のような若い男(実は孫…)がよく訪ねてきており、またその女性が悪徳金融ブローカーに騙されて全財産を失いそうになっていたとも語ります。そしてさらに続けます。

そう言えば、その若い男はあの殺人事件が起きた後は見かけなくなったなと。

美令の顔が凍りつきます。

帰りの新幹線の中、無言のままの二人です。そして二人はどちらかともなく手を取り合います。

33年前の殺人事件の真相

33年前の殺人事件の真犯人は美令の父親白石健介とわかります。しかし、まだ倉木達郎との関係がわかりません。突然、33年前が再現フイルムのように描かれます(涙)。

33年前、倉木達郎(井之脇海)は悪徳金融ブローカーに交通事故絡みでいちゃもんをつけられ、毎日その男の事務所に呼び出されています。その時、祖母がそのブローカーから財産を騙し取られたという白石健介(漆山拓実)と出会います。また後に殺人事件の容疑者とされ自殺した男の姿もワンカットありました(だったと思う…)。

そしてある日、倉木達郎が事務所に行きますとブローカーは殺されており、その時ベランダに潜む白石健介の姿を見ます。達郎は健介を逃すことを決め、ベランダへ出るサッシの鍵を閉めて指紋を拭い、凶器の指紋まで拭うのです。後日、達郎はテレビのニュースで容疑者が拘置所で自殺したことを知ります。

これで倉木達郎と白石健介の関係はわかりました。後は白石健介を殺したのは誰かです。

弁護士殺人事件の真相

唐突に明らかにされます。33年前の殺人事件の容疑者とされた男の妻(風吹ジュン)の娘(井川遥)の子ども(少年…)です。倉木達郎はある時(なにか言っていたかもしれない…)この冤罪家族の現在を知り、その小料理屋を訪れるようになり、事件の真相を話したようです。それを知った子どもが白石健介を殺したということです。

倉木達郎は自分が白石健介を逃したことで人が死にその家族を苦しめたことを償おうと遺産を贈るつもりだったようです。映画(小説…)ですのでどうこう言うようなことではありませんが、33年前のことなんて話しちゃダメでしょう。

この映画、みんないい人映画ですのでまだあります。刑事の五代努が美令に話します。犯人の少年は殺人犯の孫ということでいじめられていた事実はなく、むしろ逆にいじめる側であり、一度人を殺してみたかったと話していると言い、さらに殺害の経緯については、白石健介は車の中で刺された後も即死ではなく、少年をかばうために自ら車を運転して場所を変え、運転席から後部座席に移動して息絶えたのではないかと推察できると説明します。

この少年の話も、白石健介の行動も、本当に原作にあるんですかね。ミステリーものとしては違和感を感じます。

感想、考察:そして、ラブストーリーへ

そしてラストシークエンス、ラブストーリーです。数カ月後くらいでしょうか、和真は法律事務所に勤める美令を訪ね、父親は亡くなった(癌のことは話していた…)と言い…、

そこでシーンが変わり、和真が思い悩みながら町中を帰っていく姿に美令の言葉が流れていたと思います。

私には殺人犯の血が流れている、これは決して消えない、こんな感じだったと思います。これはこの映画を貫いているテーマで、消えないというのは家系とか血ということではなく、仮に子どもを持てばその子どもが苦しむという意味です。冤罪家族やいっときの和真がそうであり、美令はこれからその苦しみを背負って生きていくしかないということです。

和真が立ち止まり、振り返って走り始めます。美令もまた会社を出て追ってきています。和真は、あの日が忘れられない、また手を握りあえる関係になりたいと告白し、いつまでも待っていると言います。それに対して美令もなにか答えたと思いますが記憶にありません。いずれにしてもはいということです。

という映画で犯罪事件としてみればかなり穴の多いプロットですが、ラブストーリーとしてみれば、加害者側の立場と被害者側の立場が逆転するわけですからお互いに心の同様も激しく、また相手の苦しくつらい気持ちもわかるわけですのでドラマとしては成立します。原作にそんなつもりはないのだとは思いますが。

ところで「白鳥とコウモリ」というタイトルはなにを象徴しているんでしょう。映画ではよくわかりませんでしたが、犯罪事件における加害者側の心情と被害者側の心情なんでしょうか。原作ではどうなっているんでしょう。