東西ドイツ再統一時の通貨交換にまつわる牧歌的犯罪コメディ
この映画、ドイツでは結構受けてるんじゃないですかね。コメディということもありますが、どことなく昔はよかった感が漂っています。30数年前のドイツ再統一の頃ののどかなコミュニティが夢想されたお話です。

ネタバレあらすじ
「ハルバーシュタットの宝」記事を題材にした創作
ベルリンの壁をハンマーで叩き割る象徴的な映像が世界に流れたのは1989年の11月9日でした。実際、その日に東西ベルリンの通行が自由になっており、その後約1年を経て、1990年10月3日に正式に東西ドイツは再統一されています。
通貨の統合については、その年の5月18日に交換レートを一定額までは 1:1 、それを超える金額は 2:1 とすることが正式決定され、7月1日をもって東ドイツマルクは失効しています。交換期限は7月6日までだったそうです。
そうした通貨統合の際の混乱を題材にした映画です。
ナーチャ・ブルンクホルスト監督がインタビューで語ったところでは、ドイツ再統一当時、鉱山トンネルに大量の東ドイツ紙幣が運び込まれ、その後何者かがトンネルに侵入して盗み出した事件があったらしく、そこからこの映画を発想したということです。
多分、この KfW(ドイツ復興金融公庫)の記事のことですね。この記事によれば盗まれていたことは事実ですが収集家市場で売買されたということのようです。映画では事実にもとづくみたいなテロップが出ていましたが、いくらなんでもこの映画みたいなことはないでしょう(笑)。
いずれにしても、こうした世の中の変動期というのは早く情報を得たものが得をするというのが世の常で、この映画ではもう使えないことを知りながら面白半分で盗んだ東ドイツマルクの紙幣が、実はまだ3日間交換期限が残っていることを知ったことから大金を手にするということになります。
ただ、そもそもが牧歌的な犯罪コメディですし、盗むにしてもそもそもそのお金は人民のものだという視点もあったり、また、得た利益も個人のものにすることなく共同住宅の住民で分配するという社会主義的な価値観(の一面…)で描いている映画ではあります(多分(笑)…)。
牧歌的犯罪コメディ
マーレン(ザンドラ・ヒュラー)、夫のローベルト(マックス・リーメルト)、そしてフォルカー(ロナルト・ツェアフェルト)の幼馴染(らしい…)3人が中心となって進みます。
1990年7月、まもなく東西ドイツが統合される東ドイツ ハルバーシュタット、ローベルトが工場を解雇されます。ただ、コメディですのでいたってのんびり、そこに西側に行って稼ぐと言っていたフォルカーが帰ってきます。馴染めなかったと言っています。
3人はやたら軍用トラックが軍施設に向かって走り抜けていることを不審に思い、元軍施設の警備をしていた叔父とともに地下トンネルに忍び込みます。
マーレンは子どもの頃に忍び込んだことがあるという振りがされていました。多分その意図は3人の幼馴染がマーレンを中心にしてつながっていることを見せているんだと思います。実際、マーレンとローベルトの間には2人の子どもがいるのですが、4、5才の下の娘はフォルカーの子どものようです。え、どういうこと? なんてことを気にして観るような映画ではありませんのでさらっと流しています。
地下トンネルで見つけたのは東ドイツマルクの紙幣の山です。すでに使えないお金とはいえ見たことのない大量の紙幣に皆で大騒ぎです。
面白半分で持って帰っただけのお金ですが、たまたまやってきた西ドイツのセールスマンからまだ交換期限が3日あることを知り、3人はある方法を思いつきます。西ドイツの商品を東ドイツマルクで買い、その商品を西ドイツへ持ち込んで売り、西ドイツマルクを受け取るという方法です。
突っ込みどころではないとは思いますが、セールスマンが交換できるのであれば、そんな面倒なことをしなくても自分たちも直接 2:1 のレートで交換すればいいような気もしますけどね(笑)。
オチがよくわからない(笑)
この一連の交換シーンが結構長く描かれます(という印象…)。
こういう映画にはメリハリとテンポが必要なんですが、その点やや欠けており、さらに約2時間ありますので中盤はちょっとだれます。90分くらいがベストじゃないでしょうか。それに、中心人物である3人の関係描写や共同住宅の住人たちの集会シーンなどを見ますと非競争社会ののどかなコミュニティがイメージされているようですのでそれをもっと明確に出したほうがよかったようにも思います。
ストーリー展開に曖昧な部分が多いことでも損をしています。
あまりはっきり思い出せませんが、その後、得た利益をどうするかという段になり、マーレンが働いていた国営工場を買おうと言い出し、お金が足りないということでさらにトンネルに忍び込んで紙幣を盗んできたり、海外居住者には交換期限が延長されているということがわかって帰国する外交官を誘拐したりし、そして念願の国営工場払い下げの入札も落札します。しかし何と落札金額は1マルクだったということです。
入札には何人か並んでいましたが、無用の長物だと辞退したんですかね。フィンランドだったかスウェーデンだったかの金属部品の件もよくわかりませんでした。
で、エンディングです。かなり早い段階でマーレンの娘が流通していない200マルク(だったかな…)の紙幣でティディベアを買うシーンがあり、それが発端となっているということだと思いますが、不正がバレて全員逮捕されます。
その後どういう展開だったかまったく記憶がありませんが(笑)、南の無人島のような島を買って皆でリゾートしていました。さらにテディベアのぬいぐるみの中には西ドイツマルクが大量に隠されているというオチでした。
ツッコミ無用でしょう。
感想:ザンドラ・ヒュラー特集上映の1本だった
率直に言ってもう少しうまくつくれると思いますけどね(ゴメン…)。
この映画、昨年2025年10月にゲーテ・インスティトゥートという文化交流を目的としたドイツの出先機関が企画した「ザンドラ・ヒュラー 変幻する〈わたし〉のかたち」という企画で上映された1本とのことです。
確かにザンドラ・ヒュラーさんの映画は日本でもかなり上映されており知名度も高いです。今では「落下の解剖学」や「関心領域」で紹介されることが多いようですが、私には「希望の灯り」や「ありがとう、トニ・エルドマン」で記憶されている俳優さんです。「希望の灯り」の方はフランツ・ロゴフスキさんとの共演ですのでよけいに記憶に残っています。
それに東西ドイツの統合前後を題材にした映画ですと「東ベルリンから来た女」とか「グッバイ、レーニン!」なんて映画を思い出します。