アイ・ワズ・ア・ストレンジャー

2015年のシリア、泥沼化した内戦の戦禍を逃れて脱出する医師の物語を軸にした5つの物語の連作劇

2015年のシリア、泥沼化した内戦の戦禍を逃れて国外へ脱出しようとする医師の物語を軸に他の4つの物語が交錯する映画です。ですので群像劇というよりも連作劇のつくりです。ドキュメンタリー風の撮影手法が使われていますが、観る者の感情を揺さぶろうとの意志が強く感じられるドラマ映画です。

アイ・ワズ・ア・ストレンジャー / 監督:ブラント・アンダーセン

ネタバレあらすじ

アレッポの医師アミラ

2023年のシカゴから始まります。どこの街かと思いましたらシカゴだったらしく、意図的、かつおそらく批判的にトランプタワーを写り込ませていました。

医師アミラ(ヤスミン・アル・マスリー)が勤務先の病院に入っていきます。そして、何がきっかけであったかは忘れましたが、8年前のシリアにフラッシュバックします。

2015年、シリア アレッポの病院で働くアミラです。絶えることのない爆発音、次々に運ばれてくる負傷者、アミラは的確に指示を出しています。担架で運ばれてきた兵士が他の負傷者を敵とみるや拳銃を突きつけるような修羅場です。アミラは怯むことなくそうした兵士に相対しています。

アミラの 父親の家(だと思う…)に家族数人が集まっています。娘のラシャもいます。アミラの(だと思う…)誕生日の集まりのようです。突然の爆発、家が吹っ飛びます。空爆された市街地のような瓦礫の山からアミラとラシャが救出され、車のトランクに隠れるよう促されて脱出します。

この映画、それぞれ人物の所属であるとか背景はほとんど描かれませんので、この場面でも二人を国外へ脱出させる人物(兵士ではある…)が誰でどういう関係かも描かれません。

アミラとラシャのシリア脱出の旅が始まります。

2015年ごろのシリアは、2011年から始まったシリア内戦が泥沼化し、当時で400万人(UNHCRへの登録…)の難民が国外に逃れたと言われています。そうした背景をもつ映画です。

兵士ムスタファ、密航業者マルワン

検問所です。おそらくアサド政府軍のものでしょう。兵士ムスタファ(ヤヤ・マヘイニ)と同僚、そして治安機関の者と思われる人物もいます。アミラとラシャを乗せた車がやってきます。

といった感じで映画は続いていくわけですが、パート替わりにはその何時間前とテロップが入り、しばらく前のムスタファが描かれます。ムスタファは治安機関の人物が反政府側と思われる10人ほどに対して無造作に射殺の命令を出す場に立ち会います。射殺された中にはただアサド政権を非難する落書きをしただけの子どももいます。ムスタファに迷いが生じます。

そして検問所、治安機関の男はトランクを開けろと命じ、従わない運転手である兵士を射殺し、トランクを開け、アミラとラシャを引きずり出します。

このパートはここで終わっていますが、次のパートではムスタファもアミラとともに国外脱出に加わっています。また、ラストシーンでは治安機関の男が倒れているところが映し出されますのでムスタファが治安機関の男を射殺してアミラたちを助けたということになります。

続いて、場面はトルコの地中海沿いに移ります。

このパートも何時間前とテロップが入ります。密航斡旋業者マルワン(オマール・シー)は息子と暮らしています。息子は常に咳をしていますので喘息と思われます。息子思いの父親のシーンが続き、しかし一方では難民たちには冷酷な人物です。

難民たちを集め、大人2000リラ(2015年レートで約90,000円…)、子ども1500リラと言っています。難民の中にはアミラとラシャ親子にムスタファもいます。定員は30名だと言っています。

そして深夜、マルワンは難民たちをゴムボートに押し込み、難民のひとりファティ(ジアド・バクリ)に操縦するように指示し、沖へ押し出します。

マルワンの手下がボートを見送るマルワンを後ろから射殺します。金欲しさです。父マルワンの帰りを待つ子どものカットでこのパートは終わります。

詩人ファティ、ギリシャの船長スタヴロス

そのまた何時間前、その浜にほど近い難民収容所です。ファティ家族が収容所を抜け出して浜に向かおうとしています。妻と息子と娘、妻は乳児を抱いています。収容所の金網を抜け出す際には警備員に銃で威嚇され、慌てた娘が金網で足にケガをします。

それでもなんとか浜に着いたファティ家族です。ゴムボートは明らかに定員オーバー、さらにマルワンは救命胴衣も少数しか用意していません。せめて娘だけには救命胴衣をと懇願する妻です。ラシャがそっと救命胴衣を差し出します。

難民は26人と言っていたように思います。アミラ、ラシャ、ムスタファもいます。

沖に出たゴムボートは嵐に見舞われます。さらに船外機が故障します。荒れ狂う波に振り落とされる者が出ます。ライトが見えます。沿岸警備隊の船です。落水者を先に救出しろと声がします。ボートでは皆で手を使って漕ぎ始めます。

また何時間前とテロップが入り最後のパート、ギリシャです。

沿岸警備隊の隊長スタヴロス(コンスタンティン・マルクーラキス)は難民たちを救出する任務についています。救出のために海に飛び込むも助けられずにハッと目を覚ます夢を見ます。また、仲間たちとの食事会では1万を超える(間違っているかも…)難民を救出したと深刻な状況を語り合うシーンもあります。

そして深夜、スタヴロスは捜索に出港します。海は嵐です。漂流するゴムボートを発見します。落水者を引き上げ心肺蘇生を試みます。ボートにロープを投げ、横付けして救助します。ファティの妻が娘がいないと叫んでいます。スタヴロスは海に飛び込み救出します。しかし、心肺蘇生も及ばず、ファティはもういいとうなだれています。

シカゴの医師アミラ

シカゴに戻ってからがややわかりにくいのですが、多分2015年の続きだと思います。

アミラが医師のオフィスでモニターに映し出されたレントゲン写真を見ています。医師が戻ってきます。急いでポスト・イットに病名を書き入れ、モニターに貼ってオフィスを出ていきます。その時、アミラが押しているのは掃除道具の入ったワゴンです。

医師はモニターのレントゲン写真とポスト・イットを見比べ、出ていったアミラの姿を追います。

これで映画は終わっていたと思います。おそらくアメリカに渡ったアミラは清掃員として病院で働き始め、その後、有能な医師であることが判明し、正規の医師として働くことになったということだと思います。

ただ、仮にそうだとしても現実にはアミラがアメリカで正規の医師として働くのはかなりハードルが高いと思われます。

感想:物語で終わってしまう

なんだか夏休みの作文のような文章になってしまいました。たぶん、映画自体が説明的な物語に終始していてそれぞれの人物を描いていないからだと思います。起きていることを書く以外にない映画ということです。

ブラント・アンダーセン監督は初の長編映画だそうです。ただ、プロデューサーとしてのキャリアはかなりのものですし、それにプロフィールには活動家とあります。そうしたところからのこの映画ということでしょう。

ウィキペディアには

2023年11月、アンダーセンはヨルダン軍と共にガザ上空で人道支援物資の投下を行った。

という記述もあります。こうした活動をしているのであれば、この映画のような説明的な物語よりもジャーナリズム的なドキュメンタリーの手法をとったほうがより訴求力があるような気がします。