隣人たち

このキャスティングなのに突然2年後に公開する意味は?

せっかくジェシカ・チャステイン、アン・ハサウェイという二人のアカデミー賞俳優をダブル主演で使っているんですからもっと深い心理描写のある映画にしないともったいないですね。これですと単にサイコパスの犯罪映画です。

隣人たち / 監督:ブノワ・ドゥローム

ネタバレあらすじ

同質なふた家族の異様な関係

1960年代のアメリカの中流家庭の話です。

トレーラーからの画像ですのであまりきれいではありませんが、左がセリーヌ(アン・ハサウェイ)の家、右がアリス(ジェシカ・チャステイン)の家です。ともに夫と同い年の息子との暮らしで本人たちは専業主婦です。

セリーヌにしてもアリスにしても、また夫たちにしても個別に人物像が描かれるわけではなく、いわゆるアメリカの1950年代から60年代にかけての郊外に住む幸せな核家族像そのものです。

同質なふた家族という設定で、お互いに合鍵まで持っています。

冒頭のシーン、アリスはセリーヌが車で子どもたちを迎えに出たとみるや合鍵を使ってセリーヌの家に入り裏庭の見える窓のカーテンを閉めていきます。なんや!と思いましたら、セリーヌが戻り、異変に気づきカーテンを開けますと皆でハッピーバースデー!のサプライズでした。

これは、ワンシーンでふた家族の異様な(笑)な関係がわかってよかったですね。

主観のアリス、客観のセリーヌ

事故が起きます。

セリーヌの息子マックスが鳥の巣箱をバルコニーに掛けようとしています。庭にいたアリスは、危険を感じて両家の間の生け垣のトンネル(子どもたちが行き来している…)を抜けようとします。しかし引っかかって抜けられません。セリーヌは掃除機の音でアリスの声にも気づいていません。玄関から飛び込んできたアリスとともに二階に駆け上がりますが間に合わずマックスは転落死してしまいます。

セリーヌは塞ぎ込み、アリス夫婦が慰めようと訪れても会おうとしません。また、夫の方もショックのあまりアルコールに頼る日々が続いているようです(あまり描かれません…)。もう子どもを持つことが出来ない(理由はあるが重要視されていない…)ことが悲嘆に暮れる理由と描かれています。

セリーヌがアリスの息子テオを見る目が変わってきます。喪失感をテオで埋めようとしているようです。アリスもその気配を感じ、テオをセリーヌから遠ざけようとします。しかし、テオは同情もあってかセリーヌに懐いてしまいます。

という状態がしばらく続きます。ただ、ここの描写が物足りないんです。約90分の映画ですのでここの描写、ふたりがどんどん視野が狭くなり精神的におかしくなっていくシークエンスをあと30分くらい描くべきです。

そのひとつのシーンがあります。その時アリスはテオをセリーヌに預けており、マックスが転落死したときと同じように庭からテオがバルコニーに出ているところを見かけます。慌てて同じように生け垣のトンネルをくぐり抜けようとし、今度は抜けることができ、テオのもとに駆けつけます。アリスはマックスのときには出来なかったことがテオのためには出来たことに自責の念を感じ始めます。また、きっとアリスもそう思ったに違いないと疑心暗鬼に陥っていきます。

思い返してみれば、この映画、アリス視点でつくられていますね。まだまだ描ききれてはいないものの、アリスがセリーヌに疑心暗鬼になり強迫観念に囚われていくことはわかります。これはアリスの主観です。一方のセリーヌはと言えば、客観でしか描かれていません。マックスを失った悲しみ以外のものがみえません。

アリスの方は過去に心を病んだことがあるなど夫とのシーンがそれなりにありますが、セリーヌの方には夫との会話もなく、最も病的(サイコ…)じゃなくていはいけないのにその主観が描かれません。これが単なる犯罪者にみえてしまう大きな理由じゃないかと思います。

セリーヌがサイコパス的犯罪者にみえる

これもあまり描かれていないことではありますが、テオがセリーヌにかなり親近感を持つようになっています。自分の誕生日に誰よりもセリーヌを呼びたいと言い出しアリスを戸惑わせます。

その誕生日の日、お祝いに来ていたアリスの夫の母親が急死します。母親は持病(心臓かな…)があり常時薬を服用しています。薬を飲んでいたはずなのになぜ?と思ったアリスは夫に内緒で解剖(しなくていいんじゃない…)を依頼します。結果、血液中からは薬成分は検出されず、アリスはセリーヌが薬をすり替えたに違いないと考えます。

その後、今度はセリーヌがアリス家族を慰めようと家に招待します。アリスはかなり神経質になっておりテオを自分のもとに置いておこうとしますが、セリーヌが言葉巧みに一人でキッチンにいかせ、そこでテオはビーナッツ入りクッキーを食べてアナフィラキシーを起こします。

もうこのあたりからは完全に犯罪映画になりますので簡潔に要点だけです。

アリスはセリーヌがわざとそうなるよう仕組んだと考え、セリーヌが留守のうちに家に忍び込み証拠を探そうとします。しかし証拠は見つからない上に見つかってしまい追い出されます。

経緯は忘れましたがふたりは和解し、アリス家族は引っ越すことを決めてセリーヌにも話します。

セリーヌが犯罪者の顔をあらわにしてきます。帰宅した夫に酒を勧めて眠らせ、クロロホルムで意識を失わせて手首を切り、自殺に見せかけて殺害します。アリス夫婦はそれと知らずに傷心のセリーヌを家に泊めることにします。それでも疑念を持っているアリスはセリーヌの家に行き、クロロホルムの存在を見つけ急いで家に戻ります。しかし、その間にセリーヌはアリスの夫とテオをクロロホルムで眠らせます。戻ったアリスとセリーヌの争いとなり、最後にはアリスもクロロホルムで眠らされます。セリーヌはボイラーの排気口から二酸化炭素が漏れるように仕組み事故に見せかけアリスと夫を殺害します。

後日、裁判官(多分…)の前のセリーヌとテオ、裁判官がテオに養子となるかの確認をしています。はいと答えるテオです。セリーヌが笑顔でテオを見つめます。

セリーヌとテオが海辺で戯れて走っていきます。

感想、考察:DVD スルーでよかったのに…

この映画は2020年の「マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル」というオンライン映画祭で配信されたオリヴィエ・マッセ=ドゥパス監督の「母親たち(DUELLES)」のリメイクということです。私が調べた限りでは現在のところ配信も DVD もないようです。

また、その映画には原作があります。Barbara Abel さんというベルギーの作家による2012年の小説『Derrière la haine(憎しみの向こう側)』です。

それにこの映画、当初、2020年にオリジナルの「母親たち(DUELLES)」のオリヴィエ・マッセ=ドゥパス監督で企画が立ち上がったものの2022年に監督を降板しているようです。その後、ブノワ・ドゥローム監督の初長編映画として制作されたということです。

ということで特に映画祭でのプレミア上映もなく2024年、ちょうど2年くらい前に順次各国で公開されたようです。IMDb によれば各国での上映は2024年中に終了しており、そしてなぜか2年後の今日本で劇場公開されたという映画です。

DVD スルーで終わるような映画が何らかの理由で劇場公開されたみたいな経緯かもしれませんね(完全に想像です…)。

ちなみに原題の「Mothers’ Instinct」は「母性本能」と訳して問題ないと思います。ただ、あるとしてもこの映画のような現れ方をするとは思いませんが。

騙されたと思ってこの映画を観てみて。