ヒンド・ラジャブの声

エンタメ要素強めで後味悪し

皮膚を売った男」のカウテール・ベン・ハニア監督です。チェニジア出身の監督です。この「ヒンド・ラジャブの声」は昨年2025年のヴェネツィア国際映画祭で審査員グランプリの銀獅子賞を受賞しています。「皮膚を売った男」からの印象では批評性はあるがエンターテインメント性の強い映画を撮る監督です。

ヒンド・ラジャブの声 / 監督:カウテール・ベン・ハニア

ネタバレあらすじ

エンタメ要素強めで後味はよくない

やはり社会派エンタメ映画でした。それもエンタメ要素強めのです。ですので後味はよくありませんし、ドラマ映画じゃなくドキュメンタリーで描くべき題材(この言葉もよくないかもです…)じゃないかと思います。

2024年1月29日、ヨルダン川西岸の赤新月社に5才の少女から電話が入ります。その少女ヒンド・ラジャブは叔父叔母たちとガザ地区から避難する途中にイスラエル軍の戦車からの銃撃を受け、叔父叔母といとこ3人は殺害され、生き残ったラジャブは15才のいとことともに助けを求めてきたのです。15才のいとこもまた死亡し、ラジャブはひとり銃撃を受けた車の中に取り残されます。

パレスチナ赤新月社の X です。

赤新月社のスタッフは救助隊員を向かわせるべく必死に各所に連絡をしますが、安全ルートを確保しない限り救助隊員が命の危険にさらされます。ガザ地区の救助隊員の待機場所から現地まではわずか車で8分、しかし、安全ルートの確保には赤新月社から赤十字、そしてイスラエル保健省、まだあったと思いますが最後はイスラエル軍へととてつもなく複雑なルートを経るしかありません。

そしてかなりの時間を経てやっと安全ルートが確保されたとの連絡があり、救助隊員が出発します。しかし、救助隊員が現場に到着したと同時に銃声と爆発音がし、救助隊員とも、そしてラジャブとも連絡は途絶えます。イスラエル軍撤退後の2月10日、ラジャブは救急隊員とともに遺体で発見されます。

映画が描いているのは赤新月社のオフィス内のみで、エンドロールにおそらく2月10日のものだと思いますが、発見時の実写フィルムが流れます。

当時のニュース記事はたくさんあります。そのひとつ CNN の2月6日の記事です。記事の時点では、まだラジャブも救助隊員も安否はわかっていません。

スタッフの興奮状態の演出は疑問

映画で使われているラジャブの通話音声は録音された本人のものだそうです。カウテール・ベン・ハニア監督は、当時赤新月社が公開したものを聞き、その後全録音を聞いて映画化を決意したと語っています。

また、実際には最初は15才のいとこが電話を掛けてきたらしく、その電話は機関銃の銃撃音とともに途切れたとのことです。その後赤新月社のスタッフが掛けた電話にラジャブが出て、その後、スタッフたちはラジャブを勇気づけようと何時間も話し続けたということです。

映画はそのスタッフたちが必死になる様をかなりエモーショナルに描いています。最初にラジャブの電話を受けたスタッフはかなり早い段階で興奮状態になり、上司なのかカウンセラーなのかわかりませんがカウンセリングのようなシーンがありますし、その後電話を受けるようになった女性スタッフは顔が涙でぐちゃぐちゃですし、その後失神したりします。また、電話を受ける担当者と救助隊員に指示を出す担当者が取っ組み合いになったりするシーンもあります。

はっきり言って、こういう内容の映画ではやってはいけない演出です。

ヒンド・ラジャブ殺害事件のその後

事件のその後の経緯はたくさんニュース記事がありますし、ウィキペディアにもまとめられています。

スカイニュースの2026年8月20日の記事です。

また、この事件を描いた映画は他にも2本あるそうです。

  • Close Your Eyes Hind : Directed by Amir Zaza

シリア系オランダ人アミール・ザザ監督による短編映画

※スマートフォンの場合は2度押しが必要な場合があります

  • Hind Under Siege : Directed by Naji Salameh

ヨルダン系パレスチナ人ナジ・サラメ監督による短編映画

※スマートフォンの場合は2度押しが必要な場合があります

この事件はパレスチナ外務省や人権団体から国際刑事裁判所(ICC)へ戦争犯罪として付託されているようです。ICC はアメリカから不当な制裁を課された赤根智子さんが所長をしている組織で、ジェノサイドや人道に対する犯罪戦争を犯した個人を裁く組織です。すでにイスラエルのネタニヤフ首相やガラント前国防相、またハマス幹部に対しては戦争犯罪および人道に対する罪の疑いで逮捕状が発付されています。アメリカによるICC のスタッフや赤根智子所長への制裁はその仕返しです。

この本、私も読みましたがとても冷静で論理的に思考される方だと感じます。

ICC への付託は、ラジャブの死後に設立されたヒンド・ラジャブ財団からも、ラジャブの家族を殺害した指揮官を特定したとしてこれも ICC に付託されているとのことです。付託とは捜査を行うよう要請することです。

時代の大きなパラダイム転換に遭遇している気がするこのところの世界情勢です。