是枝裕和監督らしくないあまり映画的じゃない映画
藤本タツキさんの名も『ルックバック』がどんなものかもまったく知らず、是枝裕和監督の映画ということで観た映画です。それに出口夏希さんと蒔田彩珠さんのどちらもいい印象で記憶されていることもあります。

ネタバレあらすじ
えらくあっさりしていますね。映画人ならもっと描きたくなるんじゃないかと思うところがかなりすっ飛ばされています。
いくつかあるんですが、一番思うのは京本(蒔田彩珠)が美大へ行くので漫画の共同制作は出来ないと藤野(出口夏希)に伝えた後の二人の心の動きです。シーンとしてはまったくありません。次のシーンではいきなり藤野が数人のアシスタントを抱える、いわゆる売れっ子作家になっており、京本の方はと言えばもう藤野の妄想シーンでしか出てきません。
二人の別れのシーンの藤野の言葉が、本心ではないとはいえ背景はアシスタントを雇えばなんとかなるで終わり、その次のシーンではアシスタントたちが漫画制作ソフト(なのかな…)で手際よく背景を描いていきます。そこにいたる二人の葛藤を描かなければ、二人のつながりはその程度のものなのかと思っちゃいますけどね。
もともと原作も二人の強いつながりを描く話ではないのかも知れません。映画をみる限り、藤野が京本を引っ張り出したことを後悔するというただ一点の話です。
藤野、京本に出会う
いまさら私が物語の内容を詳しく書くこともありませんが、後々思い出せる程度に書いておきます。
小学生の藤野(七瀬ふうり)は学年新聞に4コマ漫画を描いており、クラスの皆からもすごいねと言われて本人も自信を持っています。しかし、ある時から併載されるようになった不登校の京本が描く4コマ漫画の画力に驚きます。藤野は腐ることなく、デッサン本やデザイン帳を買って勉強を重ねます。しかし、京本のレベルになることはなく4コマ漫画を描くこともやめてしまいます。
そして卒業の日、京本に卒業証書を届けに行くことになり、京本の部屋の前の廊下に並んだデザイン帳の山に驚き、そこにあった白紙の4コマ漫画用紙に、出てこないで! 出てこい! と相反する気持ちを描きます。その時、ふわっと吹いた風が4コマ漫画を京本の部屋に滑り込ませます。
あわてて飛び出す藤野、その後を京本(岡田六花)が追いかけてきます。「藤野先生!」「私、藤野先生のファンなんです。藤野先生の漫画を見て私も描き始めたんです」「サインください」藤野は京本が着ているどてらの背中にマジックで藤野と書きます。
簡潔に書くのって難しいですね。どうしても長くなってしまいます(笑)。
藤野、出会いを後悔する
その時、どうして描くのをやめたんですかと尋ねる京本に、藤野は賞に応募するために構想を練っていると見栄を張ってしまいます。
そして中学生の二人、ここもかなり飛んでいますね。いきなり京本が藤野の家の机に向かっているシーンだったと思います。
二人は賞に応募するための漫画を共同で描いているのです。このあたりで俳優が藤野(出口夏希)、京本(蒔田彩珠)に変わっています。二人は完成した漫画を出版社に持ち込みます。担当者(菅田将暉)からはすごいねと評価され、賞の結果は準入選です。その後は高校卒業までトントン拍子に進み、何冊かの一話完結本が藤野きょうの名で発売されます。
そして高校卒業間近、出版社から連載をやらないかと誘われます。その帰りの二人の別れのシーンとそれに続く藤野の売れっ子作家シーンが最初に書いたことです。
藤野の仕事場です。あれ、東京ですね。街並みが見えるガラス張りのオフィスです。アシスタントたちを帰した後の藤野です。テレビから山形の美大につるはしを持った男が侵入して学生を襲い何人かの死者が出ているとのニュースが流れます。男は自分の絵がパクられたと言っています。
ここも一気に飛びます。藤野は連載を休止し、故郷に戻り、京本の家を訪ね、出会ったときと同じように京本の部屋の前に立ちます。積まれた漫画雑誌をめくりますと、あの日藤野が描いた「出てこないで!」「出てこい!」の4コマ漫画がひらりと落ちます。藤野はその4コマ漫画をくしゃくしゃにして引きちぎります。切れ端が京本の部屋に滑り込んでいきます。その切れ端は「出てこないで!」の1コマです。
ここからはその1コマを見た京本の藤野と出会うことのない京本のその後という藤野の妄想シーンが始まります。
そこでは京本は美大に合格して学生生活を送っています。事件のその日、犯人の男はたまたま廊下のソファで休憩していた京本に襲いかかります。その時です。どこからともなく現れた藤野が男に向かって飛び蹴りを食らわし撃退します。死者が出ることもなく事件は収束し、ケガをした藤野がストレッチャーで運ばれていきます。京本が連絡先を教えてくださいと駆け寄り、差し出されたスマホを見ますとそこには藤野の名前があります。
現実の藤野です。京本の部屋に入りますと、あの日自分がサインしたどてらが掛けられています。自分が京本を引っ張り出さなければと悔やむ藤野です。
仕事場の藤野、机に向かって描き始める後ろ姿で終わります。
感想:生きた人間は複雑さがないと…
率直なところ大人の鑑賞にはちょっと耐えられないです(ゴメン…)。生きた人間はもっと複雑に描かないと観ていてもつまらないです。
原作がどういうものか知りませんので原作がどうこうではなく、実写映画であれば、たとえば人と会うのが怖いと言っている京本がいくら藤野だからといって即座に飛び出し話しかけるだろうかと思いますし、その後の共同作業にしても京本にとっては高いハードルと思われ、それをどうやって越えたのかもあります。
生きた人間を描くということはそういう複雑さが求められるということです。
ですので是枝裕和監督がなにを描きたくてこの映画を撮ったのかがよくわかりません。
ところで出口夏希さん、キレのいい演技をしますね。「万事快調<オール・グリーンズ>」で知った俳優さんで、この映画では南沙良さん、出口夏希さん、吉田美月喜さんの3人がとてもよかったです。
蒔田彩珠さんは「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」から観ている俳優さんでこの映画も南沙良さんと共演でした。
この「ルックバック」では子役のシーンが結構長いこともありますし、どちらも俳優としての力が前面に出る映画ではありませんでした。東北のどこかの田舎の風景の中の二人(子役も含め…)のシーンが多い映画でした。
風景としては美しい映像も多いのですが、映画の中の美しさとはちょっと違います。