自分の物語を書くをテーマにした3人のさとこさんの話、姫野花春さんがすごいです。
一瞬、ひとりの話? と思いましたが、同時代を生きる3人の「さとこ」の物語でした。左から55歳里子の石田ひかりさん、35歳沙都子の有村架純さん、そして15歳聡子を演じる姫野花春さんです。映画は15歳聡子から始まります。姫野花春さんから始めて大成功でしたね。

ネタバレあらすじ
自分の物語を小説に書くことを軸に3人の「さとこ」の物語が繋がっていきます。共演シーンはそれぞれ1、2シーン程度でほぼオムニバスの構成になっています。
それがよかったんじゃないかと思います。姫野花春さんが聡子15歳をのびのびと演じています。聡子(姫野花春)が耳鼻科で吸引器を鼻に突っ込んでいるシーンから始まります。このシーンだけでも間違いなく惹きつけられます。
姫野花春さん、この映画がデビュー作のようです。持ち味ピッタリのいい映画に出会いましたね。まだ16歳ですので今後どうなっていくのかわかりませんが俳優としてやっていくのであれば楽しみです。
初恋とネブライザー
聡子はアレルギー鼻炎の治療のために通っている耳鼻科で同じクラスの男の子に出会い、好きになってしまいます。親しい女友だち2人に、鼻にネブライザーを突っ込んでいるところを見られたんだからもう何も怖いことはないとあっけらかんとしています。
たしかにそういうことってあります。人間、誰もが自分をかっこよくとか大きくとか見せたくなるもので、初対面で自分をさらけ出すのはとても難しく、後々苦労することもあります。15歳の女の子にしてみれば鼻にネプライザーを突っ込んでいるところなど男の子に見られたくはないでしょう。ヤバ、見られた、が恋心に変わることもあり得ることかと思います。
ただこの映画、その初恋を描くことが主眼ではありません。その初恋、そして失恋(ということでもない…)の物語を小説に書くことです。
このパートを面白くしている人物がもうひとり登場します。国語の先生(吉田羊)です。歌舞伎を鑑賞して感想文を出すという課外授業があり、しかし聡子は爆睡して観ていません。それでもなんとか書いて出した感想文を先生は、おもしろい、観ていないことがダントツで分かると言い、これになにか(課題は忘れた…)書いてみなさいとノートを渡します。
この先生がミステリアスでなにを考えているかわからない大人の女性なんです。これがうまく演出されており、子どもの時に感じた「大人」という存在にうまく造形されています。
吉田羊さん、さすがです(笑)。昭和の時代の子どもならビビってしまいそうですが、今は令和、聡子も対等です。このあたりの姫野花春さん、うまいですね。特に演技というわけではなく、日常なんでしょうか。
で、その先生、ある日突然、退職したと知らされます。将棋クラブの顧問をしていたのですが、生徒を自宅に招いて将棋を教わっていたということで問題にされたということです。
聡子は誰もいない将棋クラブの部屋に入り、足を組み、タバコを吸うポーズをして先生の真似をします。
よくわかりますね、こういう行動。、大人のノスタルジーですがホントよくわかります。
おでんにはもってこいの日
35歳沙都子(有村架純)の物語です。
沙都子は映画の配給会社で働いています。韓国映画に精通しているようで新作映画の宣伝会議でも一目置かれる存在です。若手の社員の別案をにべもなく一蹴します。
沙都子は印刷会社の担当者(オダギリジョー)と付き合っています。その男には妻がいますが、付き合い始めた頃はそれは知らされておらず、それでもすでに6年続いています。最初のデートがおでん屋であり、その後もおでん屋巡りをして飲み歩く付き合いです。
ある日のこと、今日は泊まっていけると言っていた男に電話が入り、あわてて帰っていきます。沙都子は電話の相手が誰かを察しているようです。その後しばらくしてふとアパートの窓を見ますと女が立っています。男の妻です。男から逃げてと電話が入りますが、激しくドアを叩かれて開ける羽目になり、そして刺されます。
この映画はコメディですので、その後警察が登場したりとかにはならず、沙都子は入院し、相手の男との出会いからのあれこれを小説に書き始めます。また、病院では隣のベッドの女性と知り合います。この時にはわかりませんが、その女性が次のパートの55歳の里子(石田ひかり)です。
退院した沙都子が会社に戻りますと新入社員の男(青木柚)がいます。その男と仕事上のパートナーとなってあれこれあり、一緒に韓国料理を食べて、その日に即関係を持っていました。
いずれにしてもどのトピックも物語的に重要ではなく、このパートも有村架純さんという俳優を見ていればいいと思います。ほんとに有村架純さんはどの映画でも有村架純さんです。スター性があるという意味です。
小鳥とゆきの本屋さん
55歳の里子(石田ひかり)は3人の子どもを育て、その日末っ子の息子が高校を卒業し、最後の弁当をつくり、これで母親としての役割は卒業だと感じています。
ある日のこと、耳鼻科の診療に行きネブライザーをしていますと、隣の中学生が鼻に吸引器を突っ込みながらノートになにかを書い綴っています。そこには「遺書」の文字が! と驚きますが、聡子であるその中学生は作文の課題ですと笑顔で答えます。
里子に若き頃の小説家への夢がよみがえります。ノートと筆記用具を買い込んで初恋の思い出を書き始めます。それは雪国にぽつんと一軒だけ建っていた本屋の話です。里子はその本屋の店番をするお兄さんに恋をしたのです。そのお兄さんはいつも本を読んでおり、一体なにを読んでいるのだろうとそのことに気持ちがいくうちにいつの間にかお兄さんへの恋は本への興味に変わっていくのです。
里子はそんな初恋の思い出を小鳥にかえて小説にします。書き上がった小説をたまたま読んだ夫(筒井道隆)は、里子に夢を潰してしまったかもしれないねとしみじみと語ります。二人は学生時代に子どもができ結婚していたのです。息子の一人は母親にこんなファンタジーな物語があるなんてと驚いています。
その後、里子は通っているトランポリン教室で腕を骨折してしまいます。そして入院した隣のベッドにいるのが不倫騒動で刺された沙都子です。
退院後、里子が夫がつくった弁当を持ち出掛けていきます。
なにかの教室です。すでに何人かの生徒たちが座っています。里子は一番うしろの窓側の席に座ります。誰かが入ってきて里子と同じ長机に座ります。あ、耳鼻科であった…と話しかける里子ですが、わからないようです。聡子です。もうひとり入ってきます。里子が手を振っています。沙都子が二人の間に座ります。

小説の書き方教室が始まります。
感想:文章を書くことがなくならないように
自分の物語を書くことは心を豊かにするということでしょうか。
特に「文章を書く」ということに力点が置かれていますので好感が持てます。文章を書くことが少なくなってきていることへの警鐘もあるのかも知れません。実際、感想文なんてものも AI が書いてくれたりするようですので、だんだん文章で自分の思いを語るという行為自体が消えていくのかも知れません。
まさかとは思いますが、過去を見てみれば、なくなるはずがないと思っているものでも時が経つうちに徐々に消えていったものもあります。
というようなことが映画に込められているかどうかはわかりませんが、楽に観られる映画ではありました。
沖田修一監督の名前はよく目にしますが、映画は「横道世之介」しか観たことがありません。
レビューを読み返してみましたら、「かなりゆったりした作りになっていました。今見てみたら160分なんですね。あのテンポで160分を長く感じさせないのは、監督の力ということになるのでしょうか」と書いています。
この「さとこはいつも」はオリジナルですが、やや長く感じたことを除けば同じような感想ですのでこれが沖田修一監督の持ち味ということかと思います。