言葉を排除しながら言葉に頼る矛盾 原作は吉本ばなな『N・P』、監督はベルギーを拠点に活動する映像作家リサ・スピリアールト、内容はサイレント映画。どんな映画なんだろうと、期待は膨らんだのですが…。N・P / 監督:リサ・スピリアールト何をやりたかったのだろう…リサ・スピリアールト監督が、吉本ばななさんの原作を原語...
人口の2倍の羊がいるアイスランドじゃないとわからない… アイスランド映画です。監督のヴァルディミール・ヨハンソンさんは1978年生まれですので44歳くらいです。これが監督、脚本の長編デビュー作ですが、撮影や照明、そして特殊効果のスタッフとして20年くらいのキャリアがある方です。LAMB ラム / 監督:ヴァルディミール・ヨハンソン...
奇妙なシナリオとあまりに現実的な俳優たち、残る虚しさ 深田晃司監督の「LOVE LIFE」、現在開催されているヴェネチア映画祭のコンペティションに出品されています。開催が明日9月10日までですので発表は明日ですか。LOVE LIFE / 監督:深田晃司悲劇、喜劇、そして漂う空虚さ深田監督の映画は「東京人間喜劇」「ほとり...
ジャン=マルク・ヴァレ監督追悼、2005年からの1970年代青春回顧 昨年2021年の12月25日に亡くなったジャン=マルク・ヴァレ監督の2005年の映画です。亡くなった時はケベック州の湖畔のコテージにひとりだったそうです。警察発表では「Mr. Vallée’s death was not caused by the intervention of...
ホン・サンス監督だと思ってみないとその良さは感じられないかも… ホン・サンス監督は本当に多作の監督です。この「イントロダクション」が2020年の製作で、同時公開されている「あなたの顔の前に」が2021年製作となっています。ただどちらも66分と85分と短いですし、「あなたの顔の前で」は見ていませんのでおそらくですが、どちらもダイアログでつないだシンプルなつく...
日本じゃ安楽死も集団で…という近未来ディストピア 今年2022年のカンヌ映画祭「ある視点」部門でカメラドールのスペシャルメンションに選ばれた作品です。カメラドール受賞を争ったという意味でしょう。早川千絵監督の長編デビュー作で、2018年のオムニバス映画「十年 Ten Years Japan」の一編をあらためて長編として制作したものとのことです。その...
ジェシカも話も現実的なのに物語は不可解な映画 「ブンミおじさんの森」以来のアピチャッポン・ウィーラセタクン監督です。相変わらずの誘眠(催眠)映画でした。MEMORIA メモリア / 監督:アピチャッポン・ウィーラセタクン予想に反してかなりリアルな世界「ブンミおじさんの森」しか見ていない上に細かいところはほとんど記憶...
建物にしみ込んだ記憶への詩的な鎮魂ファンタジー ユーリイ・ガガーリン人類で初めて宇宙へ行ったソ連の宇宙飛行士であり軍人です。1961年のことです。この映画はその伝記ものでも何でもありません。パリ南東に隣接するイヴリー=シュル=セーヌというコミューン(地方自治体のこと)にある(あった)「ガガーリン団地(CitéGagarine)」と名付けられた共同住...
批評性のない社会派映画は見ていてつらい 久しぶりに後味の悪い映画を見ました。いや、後味だけではなく中味(そんなものはないから途中の味?)もです。映画の中で起きることに対してというわけではなく、そもそもの制作者たちの価値観がとても気になります。映画の、ひいては制作者の価値観が気持ち悪い性的暴行を許容しているかのようホラー映画のようなセットはな...
CODAはChildren of Deaf Adults、また主題とは違うもの 聴覚障害を持つ両親と兄の手話通訳者として家族を支える高校生ルビーが、自分の進路に悩み、そして羽ばたくという青春映画です。2014年の「エール!」というフランス映画のリメイクとのことです。見ていませんので予告編で触りを見てみましたら、つくりはほぼ同じような印象です。...
北白川派に時代劇は無理ではないか… 「北白川派」とは「京都造形芸術大学と映画学科が一丸となり、その全機能を駆使しながら、プロと学生が協働で一年をかけ一本の映画を完成させ、劇場公開を目指すプロジェクト(北白川派)」で、私は「嵐電」「のさりの島」と見てきて結構気に入っているんですが、さすがにこれはちょっと…です。主だったスタッフや俳優は、「監督は若...
幻想的に見えて現実的、編集は乱雑だが各シーンはおもしろい 少年少女たちが孤立した環境に置かれるという設定の物語は、多くの場合、そこに理性と本能の対立という人間社会における根源的な矛盾をあぶり出そうとする試みだと思います。しかし、この「MONOS 猿と呼ばれし者たち」はちょっと違うようです。ゲリラ組織の下部組織のような少年少女の集団「MONOS」が人質のアメリカ人博...
デューンは呪われている 「デューン」は呪われていますね。1970年代に企画されたホドロフスキー案は10時間の大作となりプロデューサーがびびって頓挫、そのあたりの経緯は「ホドロフスキーのDUNE」に詳しいのですが、その後、1984年にデイヴィッド・リンチ監督が映画化するも、本人が失敗作と認める出来で、逆にそれがリンチ監督ファンの間ではカルト的な人気が出た(かな?)...
友情と不条理のONODA、フランス向けの映画 小野田寛郎さんがフィリピンのルバング島から日本に帰還したのは戦後29年の1974年、もう47、8年前のことです。半世紀前にもなりますのでリアルタイムでそのことを記憶しているとなりますと少なくとも60歳は越えている方々かと思います。確かに、客層のほとんどはそのように見えました。少なくと20代、30代にみえる方は見かけま...
ロッド・スチュワート「セイリング」の2シーンが美しい 人には誰でもどう生きるかといった人生に対するスタンスのような代えがたい価値観のようなものがあると思います。それは、自分の人生に対することだけではなく、社会的な出来事や身の回りの人間関係の見え方にも影響します。当然、そうしたものは創作物にも現れ、またそれが作品の持ち味にもなるわけで、フランソワ・オゾン監督のそれは...
青春ノスタルジーは男の特権か? 湿っぽさのないノスタルジック青春映画という感じがします。1990年代半ばのロサンゼルス、家庭環境のせいで居場所を見いだせない13歳の少年が、スケボー仲間と出会い、背伸びして仲間に入ろうとする話です。映画が描いているのはそれだけですが、それだけであるがゆえに、見る人の年齢によってノスタルジックにも、あるいは、危なっかしいものにも見え...
不老不死をホームドラマのように描かれても… 不老不死を題材にした映画を撮ろうとすれば、一般的にはファンタジーかSFになるのではないかと思いますが、なんと!この映画はごく普通のドラマ(?)でそれを描こうとしています。挑戦的な試みなのか、原作のトーンがそこにあるのか、あるいはほかに思いつかなかったのか…どうなんでしょう?Arc アーク / 監督:石川慶...
正義の皮を被った興味本位の映画 こんな映画見なきゃよかったです。「るろうに剣心」を見たかったんですが、どうせ満員だろうと敬遠してこれを見てしまいました。内容の気持ち悪さはもちろんありますが、それよりもこの映画の製作自体が極めて胡散臭いです。SNS-少女たちの10日間- / 監督:バーラ・ハルポヴァー、ヴィート・クルサークこれは正義の行為か?ネタバ...
昭和のドラマ、平成の価値観、令和の女性観 ボクシング映画というよりもボクシングジム映画というべき、リング上の格闘よりもそこにいたるまでの(やや年齢のいった)若者たちの「心の格闘」を描いた映画でした。俳優によってドラマが生まれるいい映画です。BLUE/ブルー / 監督:?田恵輔俳優がドラマをつくる昭和のドラマのベタさを排して…ネタバレあらすじとち...
ソ連全体主義再現プロジェクト この映画を一般的な面白い面白くないという範疇で語ってもあまり意味がないかもしれません。なにせ「DAU」というのは壮大なプロジェクトであり、この映画は、13本の映画と6本のTVシリーズ(14本の映画と3本のTVシリーズかも)のうちの1本ということです。また、プロジェクトの基本的なテーマが全体主義の再現ということであれば、あるいは「静かな...