ジェンダー、ポリコレを気遣うラブコメ 「母の残像」「テルマ」のヨアキム・トリアー監督の最新作、昨年2021年のカンヌ映画祭でレナーテ・レインスベさんが女優賞を受賞しています。私は最悪。 / 監督:ヨアキム・トリアー自分探しものからラブコメへ20代後半のユリヤ(レナーテ・レインスベ)は、自分の進むべき道が見つかりませ...
時代の波に抗うことの意味を問う 監督のアレックス・カミレーリさんは本人が生まれる前に両親がアメリカに移住したマルタ系アメリカ人です。ですので、おそらく自らのアイデンティティに向き合うことから生まれた映画だと思います。地中海のマルタ島でルッツという伝統の木造小型船で漁をする青年の苦悩を描き、本人名で青年を演じたジェスマーク・シクルーナさんが昨年202...
PTAアンダーソン監督自身のカリフォルニア・ドリーミング ポール・トーマス・アンダーソン監督の最新作「リコリス・ピザ」、今年3月のアカデミー賞には作品賞、監督賞、脚本賞の3賞にノミネートされていましたが受賞はありませんでした。ちなみに作品賞は「コーダ あいのうた」でした。タイトルの「リコリス・ピザ」は1986年まで南カリフォルニアにあったレコードシ...
ホン・サンス監督だと思ってみないとその良さは感じられないかも… ホン・サンス監督は本当に多作の監督です。この「イントロダクション」が2020年の製作で、同時公開されている「あなたの顔の前に」が2021年製作となっています。ただどちらも66分と85分と短いですし、「あなたの顔の前で」は見ていませんのでおそらくですが、どちらもダイアログでつないだシンプルなつく...
1970年から半世紀、女性解放は遅々として進まず、特に日本では… 1970年前後は第二波フェミニズムの時代であり、日本でもウーマン・リブ(Women's Liberation Movement)と呼ばれた女性解放運動が大きなムーブメントとなっていました。そうした時代の1970年、イギリスで行われたミス・ワールド世界大会の会場で女性解放を訴えようと抗...
岸井ゆきの、ムロツヨシ2人の豹変力(?)俳優力が光る ????田恵輔(吉田恵輔)監督、振り返ってみれば「ヒメアノ~ル」からすべて見ています。「犬猿」「愛しのアイリーン」「BLUE/ブルー」「告白」、好みとして合うわけではないのですが、うまいなあと思うところが多い監督です。よかったのは「犬猿」と「BLUE/ブルー」です。神は見返りを...
疑似家族誕生ロードムービーだが、シナリオが薄っぺらい 是枝裕和監督作品です。今年2022年のカンヌ映画祭コンペティションに出品され、ソン・ガンホさんが男優賞を受賞しています。また、作品としてはキリスト教団体が選ぶエキュメニカル審査員賞も受賞しています。俳優はもちろんのこと、スタッフも全員(かな?)韓国のようです。ベイビー・ブローカ...
見どころは三人の俳優の演技、物語は短絡的 三人三様という言葉があり、チェーホフにも「三人姉妹」という戯曲がありますが、この映画は「三姉妹」、性格や生活環境が異なる三姉妹が父親の誕生会に集い、心に閉ざしていた幼い頃の思いを爆発させることであらためて姉妹の絆を深めるという物語です。監督はイ・スンウォンさん、初めて見ます。三姉妹を演じるのは「愛の不時着」...
日本じゃ安楽死も集団で…という近未来ディストピア 今年2022年のカンヌ映画祭「ある視点」部門でカメラドールのスペシャルメンションに選ばれた作品です。カメラドール受賞を争ったという意味でしょう。早川千絵監督の長編デビュー作で、2018年のオムニバス映画「十年 Ten Years Japan」の一編をあらためて長編として制作したものとのことです。その...
社会風刺も時にブーメランになる 昨年2021年のベルリン映画祭の金熊受賞作です。この時、銀熊の審査員グランプリを受賞しているのが濱口竜介監督の「偶然と想像」です。1年前のことなのにコロナ(COVID-19)がどんな状況だったのかすっかり忘れてしまっています。日本は比較的落ち着いていましたが、ヨーロッパは大変な時期だったようでこの年のベルリンはオンラ...
ファビアン、あるいは堕落について 『飛ぶ教室』『エーミールと探偵たち』『点子ちゃんとアントン』など、子ども向けの原作がよく映画化されるエーリッヒ・ケストナーさんの大人向けの作品『ファビアン あるモラリストの物語』の映画化です。主演は「コーヒーをめぐる冒険」「ピエロがお前を嘲笑う」のトム・シリングさん、「さよなら、アドルフ」のザスキア・ローゼンダール...
かなり乱暴なつくり、日常的リアルの果てに… 「今最も注目を浴びている演出家・劇作家の加藤拓也(公式サイト)」監督の長編デビュー作を見てきました。現在28歳の方で「劇団た組」の主宰者です。主演は「菊とギロチン」の木竜麻生さんと「のさりの島」の藤原季節さんです。わたし達はおとな / 監督:加藤拓也リアルさのその裏側に...
映画は最強のプロパガンダ手段 2022年の今ではドンバスやドネツクの地名も毎日のように耳にしますが、その地名をタイトルにしたこの映画の製作年は2018年です。2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻(侵略)の4年前の映画です。皮肉なことですが、この戦争がなければこの映画が日本で劇場公開されていたかどうかわかりません。2018年のカンヌ映画祭...
1300kmのローカルバスの旅、果たしてその目的は… 公式サイトの宣伝コピーに「数々の映画祭での受賞・ノミネート歴を誇る名監督として評価されるギリーズ・マッキノン監督」というものがあり、え? まったく知らない監督だぁ…と過去のタイトルを見てみましたが、やはりどのタイトルも見た記憶のない監督でした。現在74歳、スコットランドの監督で「ウイスキーと2人...
ディストピアではなく、起きてはいけないがこれが現実か ミシェル・フランコ監督、「父の秘密」「或る終焉」「母という名の女」と見てきており、その名前をみれば必ず見ようと思う監督のひとりです。現在42歳、メキシコ出身の監督です。その三作ともカンヌで何らかの賞をとっていますし、この新作「ニューオーダー」も2020年のヴェネツィア映画祭で審査員グランプリの銀...
フランスの反ユダヤ主義冤罪事件ドレフュス事件を描く ロマン・ポランスキー監督、現在88歳、この「オフィサー・アンド・スパイ」は2019年製作ですから、撮っている時は84、5歳ということになります。2019年のヴェネツィア映画祭で銀獅子の審査員グランプリを受賞しています。1894年にフランスで起きた「ドレフュス事件」という冤罪事件を描いており、わざわ...
悪魔的な暴力が観念的な描写で多くは伝わらず 映画には見る側にある一定程度の共通する現実意識がないとその良さが伝わってこないものがありますが、この映画もそのひとつです。2020年のサンダンス映画祭で観客賞と審査員特別賞を受賞しています。監督はメキシコのフェルナンダ・バラデスさん、現在40歳くらいの方で、この映画が長編デビュー作のようです。[t...
1924年のジェーンが現代女性のように描かれている イギリスの文学賞ブッカー賞を受賞している作家グレアム・スウィフトさんの『マザリング・サンデー』の映画化です。受賞している作品はこれではなく『ラスト・オーダー』です。今年2022年のブッカー賞には川上未映子さんの『へヴン』が最終候補作に残っていたんですが受賞は逃しています。日本人の受賞はまだひとりも...
トム・クルーズは映画が映画でなくなった時代の最後の映画スター ハリウッド超王道! 見事です。2時間10分、あっという間でした。空中シーンでは知らず知らずのうちに拳を握っている自分に気づきます。懐かしさを感じるのに古くない見事と書いておきながらなんですが、特にすごいところがあるわけではありません。物語はハリウッドの定...
妊娠や母性は選択肢であるべき アフガニスタン人(の表記は正確ではないが)によってアフガニスタン国内で2019年に製作された映画です。製作年が重要なのは、アフガニスタンは2021年8月15日にブッシュが始めた20年の戦争を経て再びタリバン政権に戻っているからです。監督のサハラ・カリミさんはタリバンが政権を掌握した直後にカブールを脱出しウクライナに逃れ...